会社である以上、いつかは社長交代をしなければいけません。そうした事業承継をするとき、合同会社の引き継ぎを考える人もたくさんいます。

設立費用が少ないため、一人社長や家族経営の中小企業を含め、多くの人が合同会社での法人設立を考えます。

ただ、合同会社は事業承継のときに面倒なことが発生するため、事前に生前贈与や相続で何をしなければいけないのか理解する必要があります。実際、何も対策をせずに相続が発生すると、合同会社では自動的に会社の解散・清算へと進むようになります。

そこで、ここでは「事業承継のために会社経営者が理解すべき合同会社の考え方」について解説していきます。

合資会社・合名会社は意味なく、合同会社(LLC)になる

会社設立をするとき、合同会社だけでなく合資会社や合名会社という方法もあります。ただ、必ず合同会社を設立することになります。合同会社(LLC)に比べて、合資会社や合名会社は設立するメリットがゼロだからです。

株式会社や合同会社は有限責任と呼ばれており、株式(出資したお金)の範囲内でしか責任がありません。ただ、合資会社や合名会社は無限責任となります。そのため、会社を倒産させたらその他の債務(買掛金)の支払いを含め、あらゆる責任を背負うことになります。

そのため会社設立で合資会社や合名会社を考える人はおらず、合同会社になります。

株式会社と合同会社でどちらの形態にするのかは悩みますが、両者に違いはほとんどありません。節税面や資金調達で合同会社だから不利になることはなく、機能としては変わりがないのです。

ただ、設立費用については株式会社よりも合同会社で安くなっています。以下の通りです。

株式会社合同会社
登録免許税15万円6万円
定款の認証手数料5万円0円
定款の謄本手数料2,000円0円
収入印紙代0円(電子定款)0円(電子定款)

実際にはこれに司法書士へ支払う報酬も加わりますが、このように約14万円合同会社で登記費用が低くなっています。そのため一人社長や家族経営など、特に会社を大きくすることを考えていない人で人気です。

相続・死亡発生で会社清算となる合同会社

しかし、実際に死亡して相続が発生したとき、合同会社では大きな問題が起こります。強制的に会社清算となるのです。

合同会社では多くの場合、一人の出資者(代表者)で会社を作ることになります。そうして法人登記し、従業員を雇い、アルバイト・パートを何人か会社に招き入れている状態であっても、社員(出資者である代表者)が死亡した時点で会社の解散になるのです。

これについては、会社法第607条に明記されています。

社員は、前条、第609条第1項、第642条第2項及び第845条の場合のほか、次に掲げる事由によって退社する。

  • 定款で定めた事由の発生
  • 総社員の同意
  • 死亡
  • 合併(合併により当該法人である社員が消滅する場合に限る)
  • 破産手続開始の決定
  •  解散(前二号に掲げる事由によるものを除く)
  • 後見開始の審判を受けたこと
  • 除名

合同会社での社員は出資者(資本金を出している社長)になります。そのため、経営者が死亡した時点で退社となります。そうして退社扱いになると、会社の清算が行われるようになります。出資持分が相続人に引き継がれ、親族が代わりに経営の座につくことはないのです。

これが、株式会社に比べて合同会社で事業承継が面倒になる理由です。生前贈与など出資持分を後継者へすべて譲渡していれば問題ありません。ただ、死亡した時点での出資持分が相続の対象になることはなく、そのまま清算となるのです。

事業承継の対策なしの代表者死亡は迷惑がかかる

こうしたルールになっているため、合同会社(LLC)を作って何も事業承継の対策を練っていない場合、死亡して相続が発生した時点で家族に大きな迷惑がかかるようになります。出資持分の部分に多額の税金を課せられるため、家族としては相続税の支払いができなくなるのです。

法人の場合、一人社長や家族経営の中小企業であっても株価が高騰していることはよくあります。法人で株式や出資持分の価値が1億円以上になっているのは普通であり、そうなると当然ながら相続税も高額になります。

ただ会社清算によって資産を吐き出すとき、このときは家族が相続税を支払いながらも、銀行への借入金返済をしなければならず、大変な事態に陥ります。

また、慌てて新会社(合同会社の事業を引き継ぐための株式会社)を新設するにしても、一旦は会社を解散させたことにしなければいけないため、「合同会社にあった資産の移転や相続税の支払い」「銀行融資の対応」など多くやるべきことが発生するようになります。雇っていた従業員についても、いったん解雇されることになります。

当然、契約書はすべて作り直しになります。例えば不動産会社として合同会社を運営している場合、経営者が死亡すると新たに不動産の賃貸契約を結ばなければいけません。

合同会社がなくなって会社が変わる(または個人所有になる)ことから、不動産の賃貸契約をすべての借主と結び直すという非常に面倒な作業が待つことになります。

複数人の社員(出資者)がいれば清算は免れる

ただ、代表者死亡による清算を回避できる方法があります。その一つに「複数の社員(出資者)を入れておく」ことがあります。株式会社でいう、複数人の株主がいる状態にしておくのです。

こうしたケースの合同会社であれば、一人の出資者が死亡によって強制的に退社になったとしても、他の出資者が残るようになります。会社内に社員(出資者)が残っているため、会社清算は免れます。

しかし、相続人である家族が代表者の出資持分をそのまま相続し、社員(出資者)の地位を引き継げるかというと、残念ながらそうしたことは原則できません。そのため、会社に残った社員(出資者)が配偶者の妻など親族であれば問題ないですが、外部の人だとその時点で会社の経営権が他の人に渡るようになります。

なお、家族については持分を相続することはできないものの、その代わりとして持分の払戻請求権を相続することになります。これは、持分に対応する金銭の払い戻しを請求する権利になります。

ただ実際のところ、合同会社の中に多額の内部留保があればいいですが、そうした会社は少ないので現金としてすぐに用意してくれるわけではありません。その場合、持分の払戻請求権には相続税を課せられるものの、手元には現金がない状態となります。

また、既存の社員(出資者)の全員が承諾してくれれば役員として入れるものの、そうでない場合は前述の通り会社が乗っ取られます。

役員として複数の社員(出資者)を入れるのは「代表者に万が一のことがあったときの対策」として非常に有効です。ただ、中小企業にとってデメリットも非常に大きくなります。

定款に持分承継を記載するべき

そこでやるべきこととして、出資持分の規定があります。定款を変更することにより、出資した持分について代表者が死亡した場合、親族(相続人)が相続するように記すのです。例えば以下は私の会社(株式会社)の定款ですが、このようにどの会社でも定款が存在します。

会社にとっての憲法に当たるのが定款です。そこで事前に定款の内容について「死亡によって相続が発生したとき、相続人が持分を引き継ぐことで社員になる」と記しておくのです。

こうしておけば、たとえ代表者が死亡したとしても会社が強制的に清算されることはなく、株式会社と同じように会社が存続するようになります。

また事前に定款を変えておけば、他に社員(出資者)が複数いる場合であっても、相続発生と共に親族に権利が移ることになるので会社の乗っ取りは起こりません。そのため事業承継を行うとき、合同会社で最初に行うべきは定款の変更だといえます。

遺産分割協議ではなく、生前贈与や遺言で後継者に持分を移す

また、事業承継のときに経営者が実施するべきものに生前贈与や遺言があります。定款に相続時の定めをしているのは当然として、生前贈与によって後継者に持分を移したり、遺言を活用することで一人の後継者へ持分を集中させたりしましょう。

相続によって持分がいろんな人にバラけてしまう場合、いろんな人が合同会社の社員(出資者)になります。そうなると、遺産分割協議によって後継者へ持分を集中させるように調整しなければいけません。

このとき、遺産分割協議がスムーズに進展すればいいですが、仲のよさそうな兄弟であっても高確率で揉めます。また、遺産分割協議の結果をもとに後継者へ持分を移す手続きが必要なため、非常に面倒な作業をしなければいけません。

そのため相続発生後、遺産分割協議によってバラけた持分を後継者へ移す事業承継は都合が悪いです。

そこで、遺言が必要になります。遺言によって「すべての持分を後継者に譲る」ことを記しておけば、遺産分割協議なしに合同会社を引き継げるようになります。

当然ですが、定款の変更なしに遺言を残しても「死亡と共に会社を清算する」と決められているので微妙です。ただ、定款に持分を相続できると記しておけば、遺言が大いに役立つようになるのです。

ちなみに、ここまで記したことは社員(出資者)で構成される合資会社や合名会社も同じだと考えましょう。合資会社や合名会社を設立することはないと思いますが、定款を変更しなかったり遺言がなかったりすると事業承継がうまく行かなくなるのです。

株式会社に変更しても問題ない

このように、合同会社は手軽に法人設立できるために一人社長や家族経営の中小企業で人気であるものの、事業承継の場面では不都合な事態が目立つようになります。

そこで実際に事業承継が発生する場合、事前に株式会社へ変更しても問題ありません。持分を株式に変更し、商号も株式会社へと転換するのです。このとき、いったん合同会社を解散させて株式会社を設立する形式を取ります。

ただ、合同会社を解散させるとはいっても高額な税金が発生するわけではありません。登録免許税を含め、最低限の登記費用や司法書士への報酬支払いは発生しますが、司法書士に言われるまま法人印を押して報酬さえ支払えば株式会社に変更できます。

株式会社の場合、保有株式の割合によって株主総会への影響力が違ってきますし、問題なく親族が相続できます。もちろん株価対策を実施し、後継者一人に株式を集中させる作業は必要になります。ただ、合同会社のような落とし穴がなくなります。

事業承継によって贈与税や相続税に悩む段階であるなら、合同会社としてある程度の年数を経営しているはずです。その場合、株式会社への変更まで視野に入れるといいです。

合同会社の相続対策は注意点がある

法人の場合、どのような場合であっても事前に事業承継の対策を練らなければいけません。相続が発生した段階で慌てると、税金が非常に高額になってしまうからです。

ただ、これが合同会社(LLC)の場合は事態がより深刻です。代表一人だけの場合、経営者の死亡と共に会社が解散されることになるからです。また他に親族の社員(出資者)がいればいいですが、親族外の人が出資者だと会社を乗っ取られることもあります。

株式会社では起こらない問題が合同会社で発生することはよくあります。そのため定款変更するのは当然として、生前贈与や遺言などを活用しながら事前に対策を練らなければいけません。

こうした事前対策に加えて、株式会社の事業承継で行われるような会社価値の下落策を実施していくことになります。何も対策を講じないと、会社解散の危機に陥るのが合同会社です。そのため、こうした事実を理解したうえで「対策として、いまから何を始めればいいのか」を理解するようにしましょう。

法人・個人事業主の事業継承で、一瞬で3,500万円以上を節税する税金対策

法人や個人事業主では、いつかの時点で必ず事業承継する必要があります。このとき問題になるのは「誰にどの事業を移すのか」「節税したうえで事業譲渡する」ことに尽きます。

その中でも特に節税は重要であり、ほとんど儲かっていな事業主でも「事業価値が1億円以上」となるのは普通です。このときき、そのままの状態で生前贈与すると5,000万円以上の税金となり、事業承継がきっかけで後継者は破産します。

そこで税金対策を講じることにより、事業承継で発生する無駄な税金を抑えなければいけません。親族トラブルが起こらないように調整するのは当然として、早めの節税対策が必須になるのです。

「税金をゼロにする優遇税制」「会社価値を一気に6割減にできる法人保険」など、事業承継では無数のスキームが存在します。そこで、事業承継に特化した専門家を紹介します。これにより、高額な節税を実現しながらもスムーズな事業の引き継ぎが可能になります。

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