個人事業主や法人として飲食業を続けてきたとしても、いつかは必ず引退しなければいけない時期が訪れます。いわゆる、事業承継の段階です。

何も事業承継の対策をせずに日常生活を漠然と過ごすと、飲食店の場合は高額なお金だけ出ていくようになり、後で後悔します。早めに事業承継の対策を練ることで、大幅にお金を節約しながら自分の店を後世に残せるのです。

それでは、飲食店のオーナーが経営する店舗を事業承継するには何を考えればいいのでしょうか。

事業承継とはいっても、いくつか方法があります。また、飲食業界独自の特徴もあります。ここでは、飲食店が何を考えて事業承継をすればいいのか解説していきます。

跡継ぎなしで廃業した場合、高額な費用が必要

飲食業界の中でも、「フランチャイズ展開を含め何店舗も保有することで、売上規模の大きい会社」が存在します。こうした法人の場合、社内の仕組みが既にできあがっています。経営者は本当の意味で経営だけに携わるようになり、料理の提供や接客などに関与することはありません。

こうした飲食店の場合、一般的な法人と変わりがないので社内にいる後継者に継がせれば問題ありません。

しかし、チェーン展開に成功している飲食店は圧倒的に少数です。多くの場合、「飲食店オーナー=料理長」という立場です。また、いくつか店を運営しているにしても数店舗ほどに留まるのが大多数です。また、そうした店であるほど後継者問題に悩むようになります。

こうした事情があるため、飲食店では小規模の店舗で事業承継の問題が起こりやすくなっています。

・跡継ぎなしでの廃業は危険

跡継ぎなしで店をたたむ場合、廃業の道を選ぶことになります。ただ、廃業する場合は税務署などに廃業届を提出するだけで問題が解決するわけではありません。個人事業主や法人をやめたあと、高額な費用の支払いが発生するようになります。

具体的には、原状回復のリフォーム代が必要になります。長年、店舗運営してきた場合は店内がかなり汚れていますし、破損している部分も多いです。ただ、賃貸オフィスを返すときは原状回復させるのが必須であるため、そのためのリフォーム費用が必要になります。

以下のような状態に戻すことで、ようやく大家に返すことができます。

どの程度まで原状回復させるのかは要相談ですが、いずれにしても廃業という選択をすると莫大な原状回復費用がのしかかるようになります。

社長(店長)を引退して自由に過ごせると思っていたとしても、廃業の時点で高額な出費が必要になり、引退後に苦しい生活を強いられるようになります。そのため、跡継ぎなしの廃業はかなり危険だといえます。

親族内より、親族外承継が一般的

このとき、チェーン展開している飲食店なら関係ないですが、ほとんどのケースで飲食店の味は経営者がキモになります。「社長=料理長」の場合は当然として、数店舗運営でも店の味は経営者に左右されます。

こうした飲食店が事業承継する場合、店の味の出し方などを後継者へ教え込む必要があります。チェーン展開の飲食店のように、特に料理経験がなくても会社を引き継ぎできるわけではないのです。

また飲食店は「仕入れのために朝から頑張る」「夜遅くまで働く」「利益率が低い」などの条件が重なり、親族間で飲食店を継ぐケースは少ないです。子供が親の姿を見て、自分も料理の道に進むケースはそこまで多くないのです。

そのため飲食店の場合、親族内よりも親族外承継が広く実施されています。子供や孫に期待することなく、外部の後継者を探すのです。人材不足の激しい飲食業界ですが、いつの時代も新店舗を立ち上げて経営しようと考える人がいます。そうした人をターゲットにするのです。

後継者としても、ゼロから飲食店を立ち上げるとなると高額な費用が必要になるだけでなく、以下のようなメリットを受けられます。

  • 既に固定客が付いている
  • 商品メニューや内容が既にある
  • 仕入れ先や調理用具など、必要なものが揃っている
  • バイトが既に雇われており、教育されている

こうした好条件でスタートできるようになります。もちろん引継ぎの時間が1~2年ほど必要になりますが、飲食店をスタートさせるうえでは条件が優れているのです。

後継者のいない個人・中小企業の飲食店は公募するべき

それでは、後継者のいない飲食店はどのようにして後継者を見つければいいのでしょうか。この方法は単純であり、公募するだけです。

飲食店の場合、社員として働いている人が店を継ぎたいと考えているケースは少ないです。社員というのは、あくまでも社員でしかありません。そこで、独立志向のある人を引っ張ってくることを考えなければいけません。

しかし当然ですが、何も情報発信していないのに勝手に後継者が見つかり、店で働いてくれることはありません。そこで、恥を承知で跡継ぎを探していることを発信しましょう。

このときはSNSを活用してもいいし、求人サイトを利用しても問題ありません。例えば、以下は転職サイトに掲載されている求人であり、後継者候補を募集しています。

今回の場合はラーメン店ですが、メディアからも取材が来るラーメン店となります。こうした名店でも後継者不足を解消するために求人募集を出しているほどであり、跡継ぎを公募するのは特に珍しいことではありません。

何も対策せずに廃業するよりも、恥をさらしながらも後継者を見つけ、店を継がせながら味を守っていくほうが圧倒的に優れているといえます。

株価対策など、会社価値の下落は必須

そうして後継者を見つけることができたら、問題なく店舗を引き継げるように対策を練るようにしましょう。跡継ぎとはいっても、高額なお金を保有しているわけではありません。そのため、何の対策もなしに事業譲渡しても、株の譲渡額や贈与税が高額になりすぎて、後継者は株式を引継ぎできません。

特に法人の場合、事業承継のときは株価が重要になります。自社株の価値で法人の値段を算出するため、できるだけ株価引き下げをすることで後継者の負担を軽減しなければいけません。

また個人事業主だと株価は関係なくなりますが、それでも無償にて店舗を後継者に渡すことはできません。無償譲渡した場合、税務調査で否認されて後継者に多額の贈与税を課せられ、結果的に破綻するリスクが高まります。

そのため、事業承継のときは必ず事前の対策が必要になると考えましょう。

たとえ外部の人間であったとしても、後継者には安い金額で渡さなければいけません。廃業だと高額な原状回復費用が必要になることを考えると、低い金額でもいいので事業譲渡できるほうが優れているといえます。

M&A・事業譲渡で店舗ごと売ってもいい

ただ、実際のところ後継者を見つけてきて育てるとなると、非常に時間がかかりますし自社株対策も必要になって面倒です。そこで、M&Aによって他の会社に事業譲渡する方法も飲食店の事業承継では広く採用されています。

飲食店の場合、店舗の規模やブランド、売上(利益)にもよりますが、一店舗の事業譲渡であったとしても1,500~2,000万円ほどの売却額になることはよくあります。

例えば、以下はM&Aでの希望額1,700万円のうどん店(1店舗の譲渡)です。

当然ながら、数店舗運営している場合は事業譲渡するときの金額が数億円になることはよくあります。

1店舗運営よりも、店舗数が多くシステム化が進んでいるほうが会社価値は高いです。経営者である店長の人柄や料理の腕に関係なく売上を生み出している証拠だからです。

ただ、いずれにしても飲食店を売れば、このようにそれなりに高額な値段で売却できるようになります。何も対策せずに放置すれば廃業で原状回復費用が必要になるものの、M&Aではむしろ高額な資金を入手できるようになります。

株式ごと売れば税率20%

しかも、法人ごと売却すれば税金をかなり抑えられるようになります。株式の売買によって得たお金については、一律で税率20%と決められているからです。これは分離課税が適用されるからであり、役員報酬など通常の所得にかかる所得税とは別に考えます。

「会社を売る=株式を売る」ことになります。そのため株式で儲けたことになり、税率20%で問題ありません。

そのため、以下のような事業譲渡は避けましょう。

  • 個人事業主のままM&Aを利用する
  • 法人で保有する店舗のうち、一部を売って法人でお金を受け取る

個人店舗の場合、事業譲渡をして個人がお金を受け取ると、所得が高額な場合、半分が税金です。例えば5,000万円で飲食店を売却するのであれば、それだけ個人所得が増えるので2,500万円ほどが税金で取られます。ただ、法人化した後に売れば「5,000万円 × 20%(税率) = 1,000万円」の税金で済みます。

もちろん売却金額が低ければ法人化する意味がないため、売却価格~500万円ほどのM&Aでわざわざ法人化する必要はありません。法人化した後に売却するべきかどうかについては売却規模によります。

・法人で売却する場合も同様に考える

ただM&Aでは人によって興味のある店舗が異なるため、「渋谷店は買収したいものの、大阪店は不要」というケースがよくあります。このとき、渋谷店だけ売却することになります。

ただ、一部の事業だけ売って法人でお金を受け取った場合、多額の税金を課せられます。先ほどと同じように5,000万円で店舗を売り、その代金を法人で受け取り、それを法人から役員報酬の形で受け取ると半分が税金です。

そのため既に法人化していたとしても、一部を売るときは法人でお金を受け取ってはいけません。どうするかというと会社を分割します。

同じ会社にいくつもの事業がある場合、「渋谷店をもつ会社」「それ以外の店舗をもつ会社」に分けた後に渋谷店を売却します。こうしたM&Aは頻繁に行われており、社長の横にいくつもの会社を横展開で作ることから、ヨコの会社分割と呼ばれています。

こうして会社ごと売却すれば税率20%で済みます。M&Aを実施するにしても、そのやり方が違うだけで残るお金がまったく異なると考えましょう。

事業譲渡では節税対策も重要になります。これは、税率の違いを利用したものになります。M&Aで多くの人が実施している手法になるため、飲食店経営者についても事業承継のときは必ず理解するようにしましょう。

廃業でも居抜き物件として交渉するべき

しかし、中にはこれら後継者探しやM&Aによる売却を検討したとしても、結局のところうまく行かないケースもあります。公募したからといって必ず跡継ぎを見つけられるわけではないですし、M&Aによって買収してくれる人に巡り合えるとは限りません。

特に田舎地方であったり、都心部でも立地の悪い場所で運営していたりする場合、後継者や事業譲渡先はなかなか見つかりません。

そうしたときは仕方ないので廃業するしかないですが、店舗を清算するにしても、賃貸では前述の通り原状回復として高額なリフォーム代が必要になります。そこで、原状回復費用をできえるだけ抑えるようにしましょう。

例えば、不動産オーナーに対して居抜き物件として撤退できないかと打診します。

居抜き物件であれば、空調設備やレイアウトなどはそのままであり、カウンターが既についた状態となります。居酒屋、レストラン、カフェなど飲食業で特に多いのが居抜き物件になります。居抜き物件であれば、撤退時の原状回復費用を最小限に抑えることができます。

次にテナントを借りる経営者にとっても、居抜き物件であればすぐにでも営業を開始することができますし、リフォーム費用を大幅に軽減できます。そのため飲食店利用が前提なのであれば、借主をすぐに見つけることができて不動産オーナー側にとってもメリットがあります。

全員が得をする可能性のある居抜き物件であるため、飲食店の廃業を選択する場合は居抜き物件としての交渉を含めて検討するようにしましょう。

飲食業の事業承継対策は早いほどいい

居酒屋やレストラン、カフェなど飲食業は幅広いです。ただ、こうした飲食業は人材不足が深刻であり、同時に個人経営や中小企業が大多数であるため、跡継ぎがいない状態のケースがほとんどです。ただ、安易に廃業・清算という道を選ぶのではなく、早めに事業承継の対策を練るようにしましょう。

後継者のいない飲食店なのであれば、SNSの利用やマッチングサービスの活用など広く公募するといいです。いろんな方法によって公募することで、ようやく後継者を見つけられるようになります。

また、同時にM&Aによる譲渡を考えましょう。M&Aの場合は事業譲渡の方法によって税率が大幅に異なるため、節税の方法についても理解する必要があります。

こうしたポイントに注意したうえで、飲食業の経営者は社長交代の準備をしなければいけません。事業承継問題は大変だからこそ、いまから何を開始すればいいのか理解したうえで対策を練るといいです。

法人・個人事業主の事業継承で、一瞬で3,500万円以上を節税する税金対策

法人や個人事業主では、いつかの時点で必ず事業承継する必要があります。このとき問題になるのは「誰にどの事業を移すのか」「節税したうえで事業譲渡する」ことに尽きます。

その中でも特に節税は重要であり、ほとんど儲かっていな事業主でも「事業価値が1億円以上」となるのは普通です。このときき、そのままの状態で生前贈与すると5,000万円以上の税金となり、事業承継がきっかけで後継者は破産します。

そこで税金対策を講じることにより、事業承継で発生する無駄な税金を抑えなければいけません。親族トラブルが起こらないように調整するのは当然として、早めの節税対策が必須になるのです。

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