ビジネスをしている人の中には、農業を営んでいる人もいます。米や野菜を栽培したり、畜産業に携わったりしているのです。

ただ、こうした人たちが悩むことの多くに事業承継があります。多くの場合、農業法人の相続税評価額は非常に高額になります。個人で趣味で農業をしているだけなら特に問題ないですが、専業農家の場合は多くの資産を有することになるのです。

そのため、事前に事業承継を実施しなければ農家は後継者に事業を円滑に渡すことができなくなります。

しかし、農業や畜産での事業承継で具体的に何に注意を払えばいいのか、見当がつきません。ここでは、「農業法人などの規模の大きい農家が理解するべき事業承継の方法」について解説していきます。

贈与税・相続税が高額になる専業農家の実態

大規模農家で儲かっているのであれば、相続税評価額が非常に大きくなることが分かります。ただ、小規模・中規模の農家であっても高額な資産を保有しているため、結果的に事業承継が進まないケースがたくさんあります。

「自分はあまり儲かっていないから大丈夫」と考えていたとしても、農業法人(または個人事業主)として活躍している専業農家の場合、高額な固定資産を保有していることがほとんどだからです。

農業をしている場合、どのような人であっても農業・畜産に関わる多くの資産を保有しています。例えば、以下のようなものです。

  • 農業機械
  • 栽培に必要な施設:ビニールハウスなど
  • 種苗、飼料、肥料、農薬など
  • 果樹・乳牛

これら、農業でいつも利用しているものが資産になります。価値のあるものであるため、こうした資産を保有しているとそれだけ税金が高くなってしまうのです。

専業農家である以上、高額な固定資産や棚卸資産を有しているのは普通です。一つの農家で相続税評価額が1億円以上になるのは特に珍しいことではありません。当然、後継者がそうしたお金を支払うことはできないため、放置していると事業承継できないのです。

相続ではなく、生前に事業承継するべき

またこうした事業承継は生前に行うのが基本になります。相続と事業承継は混同されがちですが、相続は「死亡によって発生するもの」です。一方で事業承継は「農業という事業を後継者に渡すこと」であり、生きている間に完了させるほどスムーズです。

もちろん、事業承継を相続によって行う方法もあります。ただ、相続に伴って事業承継させるのは一般的ではないのです。

相続で事業承継させるとなると、いつ死ぬのか予測するのは不可能に近いため、後継者としてはいつ事業承継できるのか分かりません。また、事業承継では農業法人の株式価値を引き下げる株価対策を実施しますが、生前だからこそ狙った時期での自社株価値の下落方策が可能になります。死亡時期を読めない相続では株価対策が難しいのです。

しかも、株価引き下げ対策など事業承継方策は、どれだけ短くても5年は時間をかけて実施していく必要があります。会社価値を下げるからこそ、贈与税(相続税)を大幅に減額できるようになります。

そのため農業法人として活躍する人が事業承継する場合、早めに対策を練らなければいけません。何も対策しなければ相続発生と共に親族が高額な税金を課せられて破産しますが、早めに事業承継・生前贈与を実施すれば問題なく後継者が事業を引き継げるようになるのです。

実際のところ、事業承継をするためのスキームは非常に多いです。

  • 後継者が新法人を立ち上げ、そこに資産を売却する
  • 事業承継税制を利用し、実質無税(贈与税・相続税なし)で引き継がせる
  • 法人保険を利用し、個人資産を増やしながら株価を下落させる

もちろん、他にも方法はあります。農業法人が行える事業承継のやり方はいくつもあるため、どの手法が最適なのか専門家と相談しながら確認していく必要があります。

親族内だけでなく、親族外承継を考える

ただ、事業承継をすることが重要だと分かっていたとしても、後継者がいなければ意味がありません。このとき、最も一般的なのは親族内承継です。子供や孫など、親族間で事業承継することで引継ぎをするのです。

専業農家が行う事業承継でも、親族内承継は当然ながらそれなりに多いです。

しかし、残念ながら農業はビジネスの最先端ではないですし、そこまで大きく儲かるイメージもないため、親族で引継ぎしてくれる人が存在しないケースもあります。そうしたとき、親族外承継を考えるようにしましょう。

つまり、第三者で農業での新規就業を考えている人に引き継がせるのです。

第三者に引継ぎさせない場合、残された家族にとって「必要のない土地や固定資産を引き継ぎ、無駄に高額な相続税ばかり課せられる」ようになります。つまり、残された子供にとっては負の財産が残るのです。

一方で他人でもいいので渡してしまえば、親族に負の遺産はなくなります。「税金が課せられるものの、現金化できない資産」をもって死亡すると迷惑でしかないですが、他の人に渡していればそうした問題が起こらなくなるのです。

また新規就農者にとっても、土地や農業機械の投資についてゼロの状態から始めるよりも、圧倒的にお金を節約できます。さらには、既にノウハウも蓄積した状態からスタートできます。そのため新規就農者にはメリットが大きく、これから農業や畜産を始めたいと考えている人にとって、事業承継での引き継ぎは非常に優れているといえます。

このとき後継予定者を、最初は農業法人の社員やアルバイトとして雇います。その後ノウハウを伝えながら、「後継者として問題ない」と判断したあと、親族外承継させるのが一般的です。

M&Aも可能だが対象は絞られる

なお、事業承継では親族内や親族外に限らず、M&Aという方法もあります。専業農家が保有している資産ごと、他の会社に売り飛ばすのです。

ただ一般的なビジネスとは異なり、農業や畜産は田舎の特定の場所でビジネスを動かすことになります。大都市の近くで専業農家をしている人は少数です。

そうした場合、どうしても買い手は少なくなります。たとえ大規模農家として活躍している農業法人であったとしても、「北海道にある農業法人が長野県の専業農家のM&Aに乗り出す」ことはないのです。特別な理由があればM&Aを実施してくれるかもしれませんが、基本的には期待できません。

農家でもM&Aは実施すること自体は可能です。ただ、買い手が見つかるかどうかは限定的になると考えましょう。

M&Aは老後資金を得ることができますし、後継者の面倒を見る必要はなく手離れがいいです。ただ一般的なビジネスとは異なり、M&Aできるかどうかはやってみなければ分からないのが実情です。

農地転用での事業承継という選択肢を考える

ただ、後継者が見つからずM&Aも難しいという状況になった場合、どのように対処すればいいのでしょうか。これについて、農業従事者の場合は土地という資産をもっているため、農地転用という手法も存在します。

農業や酪農をしている場合、多くで広大な土地を保有しています。ただ、こうした土地は必ずしも農業のために利用しなければいけないわけではありません。自分の土地であるため、その他の用途に利用して問題ないです。

そこで、農地転用を検討します。最も分かりやすいのは宅地や賃貸マンションなどに転用することがあります。それまで農業をしていた土地について、以下のように不動産として開発するのです。

こうした農地転用の方法であれば、遺族にとって負の遺産とはなりません。宅地開発して土地を売っていれば高額な現金を手にできますし、賃貸マンション・アパートで入居者がいれば賃料収入が入ってきます。

しかし、不動産での農地転用は都市部に近い土地を保有している人のみ有効です。ド田舎に土地をもつ農業従事者には通用しません。

ただ、その他の方法で農地転用しても問題ありません。例えば、以下のような方法があります。

  • 太陽光発電
  • 資材置き場・駐車場
  • トランクルーム
  • 高齢者向け住宅

例えば、私のおじいさんの家は田舎にあり、農業をしています。私自身は継ぐ気はまったくないですが、こうした田舎だと大きな高齢者向け住宅や介護施設がいくつもあり、しかもどこも満席でキャンセル待ちが非常に多くなっています。

以下は、実際におじいさんの家の近くにある高齢者向け施設です。

このように、かなり立派な建物です。この建物の周辺には川や田んぼしかないものの、施設は高齢者でにぎわっているわけです。

都市部のように賃貸マンション・アパートなどの土地活用はできないとしても、田舎ならではの農地転用が可能です。そのため、専業農家で土地を保有している場合、農地転用まで視野に入れるようにしましょう。

農地転用できない土地に注意

ただ、一般的に農地は農地としてのみ利用できるようになっています。農業土地や遊休農地については、勝手に土地開発することができないのです。好きに不動産開発できないことから、農地は非常に使い勝手が悪くなっています。

しかし当然ながら、農地転用できない土地とはいっても「まったく活用できない」わけではありません。これについては、事前に許可を取れば農地転用することが可能です。

あなたが田舎に住んでいたとしても、それまで田んぼや畑だった土地にも関わらず、一戸建て住宅が建築されたケースがいくつもあると思います。これは、事前に土地活用の申請をして許可を取ったからになります。

基本的には農地転用できないとはいっても、事前に申請すれば問題ないケースもあります。もちろん無条件で許可が下りるわけではないものの、農地転用を検討する価値は大きいです。

最終的にはほぼ無償で他人に貸す・売る

しかし、中には農地転用の許可すら下りないケースがあります。この場合、事業承継のときは不要な固定資産(機器類など)を整理したうえで、農業土地を含め近所の人へほぼ無償で貸すようにしましょう。

農業土地というのは、何もしなければ草ばかりが生えて荒れるようになります。以下のような荒れ地へすぐに変貌してしまうのです。

そうなると、近隣からクレームが出るようになりますし、他の土地への開発も難しくなります。そこで、無償でもいいので他の人へ貸します。

人間が手入れをするからこそ、農地はきれいな姿を保つようになります。手入れをしなければすぐに土地は荒れるため、ほぼ無償でもいいので近所の人に貸して農業を続けてもらったほうがいいです。このとき、固定資産や棚卸資産についても同時に譲渡してしまいます。

このようにして農業に必要な土地や資産を貸し、さらには可能なら安い値段で譲渡(売却)していくようにしましょう。そうすれば、他に必要としている人に資産を譲渡しつつ、親族にとっての負の遺産を減少させることができます。

農地売却での税金は20%

なお、事業承継で親族に渡す場合は関係ないですが、ここまで説明した通り親族外承継やM&A、土地活用での売却を含め、農家の事業承継では他の人に渡すケースも頻繁にあります。このとき、税率は基本的に20%だと考えるようにしましょう。

例えば農業法人を他の人に売却する場合、税金は一律20%で知られています。

親族外承継やM&Aを含め、「法人を売る=株式を売る」ことになります。株式売却で得たお金は分離課税で考え、通常の所得税とは別に税額を算出します。このとき、株式売却で得た利益については税率20%で問題ないとなっているのです。

なお、中には個人事業主として専業農家をしている人もいます。こうした人について、土地を譲渡(売買)するときは先ほどと同じように税率20%です。5年以上保有する不動産(土地)を売却して得た利益については、分離課税で税率20%となっているからです。

5年以内に手にした土地を売って得た利益は非常に高額であるものの、5年以上の長期保有者については税率が低く設定されているのです。

早めの事業承継で農業の継続を考える

このように、農業や酪農をしている人は事業承継を必ず生前に行わなければいけません。そのままの状態では資産価値が非常に高額になっており、さらにはこうした資産をすぐに現金化できるわけではないため、家族は高額な税金(相続税)に苦しむようになるからです。

そこで早めに事業承継を行います。もちろんそのままでは高額な贈与税を支払えないため、株価対策などを実施することになります。

ただ、このときは親族内承継に限らず親族外承継やM&A、農地転用などさまざまな事業承継の方法が存在します。親族内に後継者がいるならいいですが、そうでない場合は負の遺産になりやすいため、家族に迷惑をかけないためにも早めに事業承継の対策を検討するようにしましょう。

儲かっていないようでも、かなり高額な資産を抱えているため、相続税が非常に高額になってしまうのが農家です。そこで税金対策を考え、事業承継を生前に実施しておくのは必須だといえます。

法人・個人事業主の事業継承で、一瞬で3,500万円以上を節税する税金対策

法人や個人事業主では、いつかの時点で必ず事業承継する必要があります。このとき問題になるのは「誰にどの事業を移すのか」「節税したうえで事業譲渡する」ことに尽きます。

その中でも特に節税は重要であり、ほとんど儲かっていな事業主でも「事業価値が1億円以上」となるのは普通です。このときき、そのままの状態で生前贈与すると5,000万円以上の税金となり、事業承継がきっかけで後継者は破産します。

そこで税金対策を講じることにより、事業承継で発生する無駄な税金を抑えなければいけません。親族トラブルが起こらないように調整するのは当然として、早めの節税対策が必須になるのです。

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