個人や中小法人として調剤薬局・ドラッグストアを運営している人は非常に多いです。薬局の大多数は中小企業であり、数店舗運営の会社ばかりとなっています。いわゆる、地域密着型の薬局経営です。
ただ、経営者が高齢であったり赤字だったりするために事業承継したいと考える薬局経営者はたくさんいます。調剤薬局・ドラッグストアの数は非常に多いため、社長交代が必要だったりM&Aによる再編が必要だったりするのです。
そうしたとき、個人や法人で活躍している経営者はどのように考えて薬局の事業承継を実現すればいいのでしょうか。
当然ながら、調剤薬局・ドラッグストアを事業再編して他の人に引き継がせるとはいっても、正しいやり方があります。そこで、薬局経営者が行うべき事業承継の方法を解説していきます。
もくじ
高齢や赤字を理由にした薬局承継は多い
社長だと、ずっと会社経営したいと考える人が多い傾向にあります。ただ、当然ながらずっと経営を継続できるわけではありません。高齢による引退を考えなければ、残された人が大変な苦労をすることになります。
このとき、一般的に70歳になる前(65~69歳)には事業承継を完了させたいと考える人が多くなります。調剤薬局・ドラッグストアを運営する中小企業が事業承継する理由で一番多いのは年齢なのです。
また、個人薬局・ドラッグストアを運営しているものの、赤字のケースもあります。昔から薬局を経営していて、へんぴな場所に立地しているので処方せんが来ないケースはその典型例です。また、大手の調剤薬局が周囲に乱立するようになり、処方せん枚数が減って採算性が合わなくなることもあります。
そうなると事業の継続自体が難しくなるため、M&Aなどによって会社を売却したほうが経営者にとっても社員にとっても優れることはよくあります。
親族内承継が無理なら親族外承継
それでは、実際に個人や法人で運営している薬局の事業承継を実現するとき、どうするかというと最も分かりやすいのは親族内承継です。息子や娘が薬剤師になっている場合、運営している調剤薬局・ドラッグストアを引き継がせるようにするのです。
実際のところ、調剤薬局では親族内承継が最も多いです。
ただ、当然ながら必ずしも子供が薬剤師などの医療関係者とは限りません。薬局経営自体は薬剤師でなくてもすることができます。このとき薬剤師資格がなくても、MR経験者など医療業界を理解している息子や娘が継ぐならまだいいですが、医療について無知の親族が継ぐと会社内で反発に遭うようになります。
当然ながら、薬剤師が辞めていくと簡単に会社が潰れます。そうした事態に陥らないため、医療関係者の親族がいない場合、調剤薬局では親族外承継が広く実施されています。
親族外に経営者候補となる人がどこにいるのかというと、これについては全国にいくらでも存在します。
薬剤師が起業することを考えるとき、ほぼ調剤薬局経営となります。その他の業態で起業することを考える人は稀です。ただ、ゼロの状態から薬局経営を目指す場合は「開業する医師」と知り合いにならなければ、その実現は厳しいです。
ただ、既に調剤薬局・ドラッグストアとして運営されている場合、医師との人脈があり、患者さんが来てくれる仕組みも構築されています。そのためゼロから起業するよりも、後継者のいない中小薬局を引き継いだほうが圧倒的に優れています。
そこで、親族外承継を選択するときは「将来の経営者候補」として外部からやる気のある薬剤師を採用する方法が広く実施されています。例えば、以下は後継者不足による事業承継問題のため、薬剤師を募集している求人になります。
このように、事業承継を見据えて後継者を公募している調剤薬局は意外と多いです。これと同じように、経営者候補を募集するのです。
しかも、こうした経営者候補であれば一般的な薬剤師と違い、「残業なしで帰らせてほしい」「勉強会への出席は嫌」などのような弱音は吐きません。むしろ、相場より低めの給料であっても管理薬剤師・エリアマネージャーとして精力的に働いてくれる存在となります。
株価対策を用いて事業承継する
ただ、考えなければいけないポイントに株価対策があります。当然、事業承継するにしても調剤薬局の価値は非常に高額になっています。たとえ1店舗運営の個人薬局であったとしても、株価が1億円以上になっているのは特に珍しいことではありません。
調剤薬局では非常に多くの在庫を抱えることになります。以下のように、大量の医薬品であふれかえるのです。
これが抗がん剤などであると、「1日で数万円分の薬を患者さんが服用する」ことも珍しくありません。そうした薬が増え、さらには薬局規模が大きい場合、一店舗だけでも高額な資産を保有することになるのです。
また、調剤薬局の場合は賃貸として借りているわけではなく、自前で土地を購入して建物を建てているケースも多いです。そうなると、その分だけ貸借対照表の資産が増えます。
調剤薬局・ドラッグストアで株価が高騰しやすい理由がここにあります。親族外承継で後継者へ会社を譲渡するにしても、事前に株価対策をしっかり行わなければ株式を後継者に渡すことができません。
そのため、何年も前から自社株対策を実施することで後継者へスムーズに株式を譲渡できるように調整する必要があります。
信託を用いて既存薬剤師の信頼を引き留める
また、親族内や親族外を含め薬局経営者が事業承継するとき、非常に重要な要素に「社内で働く薬剤師に納得してもらえるかどうか」があります。
薬局経営で最重要になるのが薬剤師の雇用です。集客については隣にある病院・クリニックに依存するため、調剤薬局の経営努力で処方せんを自ら取ってこられるケースは少ないです。施設在宅であれば営業によって処方せんを増やすことができるものの、それ以外だと厳しいのです。
そのため薬局は集客を考える必要はないものの、薬剤師の雇用が難しいという側面があります。薬剤師業界は転職が激しく、数年のうちに辞めていくのが一般的です。
また、長年働いている管理薬剤師や一般薬剤師であっても、事業承継による経営者交代によって事業の運営方針が合わなくなった瞬間に会社を去る人が多くなります。実際、事業承継によって薬剤師が辞めていくことで経営難に陥り、会社が潰れるケースはそこまで珍しくありません。
そこで、自社株対策による事業承継を実施しつつも、株式の信託を含めて検討するといいです。
信託では「後継者に社長を任せつつも、株式の保有権利は先代社長に帰属する」ようにできます。図式としては、以下のようになります。
もし、後継者の社長が微妙で元の従業員から大きな反発を受けている場合、信託契約を解消すれば先代社長に株式の権利が移り、社長の座に戻れるようになります。
また後継者が問題なく経営している場合、「信託契約を結んで5年後に全株式を渡す」などのように決めることができます。こうした対策を実施していれば、いま薬局内で働いている薬剤師や事務の反発を避けられるようになります。
事業承継後、会長としてケアは必須
ただ、どのような場合であっても事業承継を完了させた後の1~2年は必ずケアが必要になります。
後継者が変わる場合、どうしても経営方針が変わるようになるため、少なからず社員から不満が出るようになります。こうした不満について、先代社長は意見を吸い上げることで後継者に伝える必要があります。
そこで、株式を後継者に渡すとはいっても会長などに就任し、1~2年は経営アドバイスをしながらも従業員のケアを実施するといいです。
当然、このときに信託契約を結んでも問題ありません。例えば、「後継者に株式の権限を渡し、3年が経過したら全株式を譲渡する」という信託にしておきます。こうして、先代社長は会長になって間接的に経営に関わりながらも3年は働くことができます。
会長職として働くことで役員報酬をもらうことができますし、社長退任時とは別に「会長退任に伴う退職金」を支給することもできます。
既存社員の反発を避けつつ、社長退任後も数年ほど経営に関与しながら後継者を見守ることができるため、事業承継後のケアは必ず考えるようにしましょう。
M&A・事業譲渡は売り先に注意するべき
ただ、親族内や親族外での事業承継ではなく、会社ごと売却するM&Aを検討することも多いです。特に赤字経営だと後継者を見つけにくいため、M&Aを考えることが多くなります。また、儲かっている薬局であっても後継者を自ら探すのではなく、M&Aによっての売却を考えるケースも多いです。
事業承継ではM&Aも一つの選択肢に入るため、事業譲渡(売買)を考えること自体は特に問題ありません。
既に薬局経営をしている人に調剤薬局・ドラッグストアを売り渡すことになるため、調剤薬局の経営自体は問題なく継続されることになります。
このとき、分かりやすいのは大手調剤薬局チェーンに売却するケースです。ただ、調剤薬局・ドラッグストアは売り先に注意しなければならず、M&Aで大手調剤薬局チェーンに売却する場合、あなた自身は問題ないですが、残された社員の大多数が辞めるようになります。
理由は単純であり、年収や経営方針を含めまったく違うからです。
中小薬局は一般的に薬剤師の年収が高くなるため、大手薬局になった瞬間に年収が100~150万円以上も下がるのが当然です。また、中小薬局で社長にすぐ意見を伝えられていた状況から、大手になることで単なる儲け主義の薬局へと変貌することがよく起こります。
M&Aによって大手に買収された中小薬局だと、1~2年のうちに既存薬剤師のほぼ全員が辞め、大手薬局に勤めていた人が代わりに転勤し、管理薬剤師や一般薬剤師を任されるのが通常です。
そのため、社員のことまで考えるのであれば「同じ地域密着で活躍している中小薬局の経営者に売却する」など、売り先を考える必要があります。
老後資金を得るのはM&Aが最適
ただ、調剤薬局・ドラッグストアの経営者が老後資金を得るという目的で考えると、親族内や親族外の事業承継ではなく、M&Aが最適になります。
後継者に会社を渡す場合、できるだけ自社株対策を実施する必要があります。何も対策をせず、後継者が贈与税・相続税の納税資金を用意できる可能性は非常に低いからです。つまり、後継者となる次期社長がいたとしても、お金の問題で事業承継できないのです。
そこで会社価値を下げ、できるだけ安いお金で渡さなければいけません。社長交代するにしても、先代経営者のもとに入ってくるお金はどうしても少なくなるのです。
一方でM&Aの場合、その他の法人に売却することになるため、株価対策などを考慮する必要はなく高い金額での譲渡を考えれば問題ありません。
しかも、株式を売ることで得たお金は税率20%で一律です。これは分離課税が適用されるためであり、通常の役員報酬(給料)で受け取った所得とは分けて計算して問題ないことになっています。そのため、例えば会社の売却益が1億円だったとしても、支払う税金は「1億円 × 20%(税率) = 2,000万円」となります。
後継者への事業承継であれば、株式売却によって得たお金は後継者のために活用し、還元していく必要があります。ただM&Aではそうしたことを考える必要がなく、老後資金という意味では多くの現金を残せるようになります。
薬局での生前贈与・相続対策は重要
調剤薬局・ドラッグストアを経営する人は多く、実際のところコンビニよりも圧倒的に薬局の店舗数のほうが多いことは有名です。しかも、その大多数が個人薬局や数店舗運営の中小薬局です。当然、事業承継に悩む経営者の数も多いです。
このとき一般的には経営者である薬剤師(または医療関係者)の親族が会社を継ぎます。ただ、後継者を募集したりM&Aによって事業譲渡したりする方法もあります。
どの方法がいいのかは人によって状況が異なるため、最適なやり方を選ぶようにしましょう。
ただ、薬局承継では「既存社員への対応が非常に重要」という特徴があります。薬剤師に辞められると、その時点で経営がとん挫するため、既存社員の反発に遭わないように事業承継を進めなければいけません。
そのため事業承継後のケアは必要ですし、M&Aを選択するにしても売り先に注意しましょう。ここまで考えるからこそ、調剤薬局・ドラッグストアの事業承継がうまく進展するようになります。
法人や個人事業主では、いつかの時点で必ず事業承継する必要があります。このとき問題になるのは「誰にどの事業を移すのか」「節税したうえで事業譲渡する」ことに尽きます。
その中でも特に節税は重要であり、ほとんど儲かっていな事業主でも「事業価値が1億円以上」となるのは普通です。このときき、そのままの状態で生前贈与すると5,000万円以上の税金となり、事業承継がきっかけで後継者は破産します。
そこで税金対策を講じることにより、事業承継で発生する無駄な税金を抑えなければいけません。親族トラブルが起こらないように調整するのは当然として、早めの節税対策が必須になるのです。
「税金をゼロにする優遇税制」「会社価値を一気に6割減にできる法人保険」など、事業承継では無数のスキームが存在します。そこで、事業承継に特化した専門家を紹介します。これにより、高額な節税を実現しながらもスムーズな事業の引き継ぎが可能になります。