会社運営を続けていると、いつかの時期には社長交代をする必要があり、ずっと経営者として居続けることはできません。

そうしたとき、どれくらいの年齢が事業承継するタイミングとして最適なのでしょうか。また、事前の準備期間や作業の流れはどのようになっているのでしょうか。前もって進め方を理解していなければ、正しく代表者変更することができません。

経営者を交代する場面では、早めに準備して進めておいたほうがいいです。そうしなければ贈与税・相続税の対策ができないだけでなく、社長交代したあとの経営がうまく回らないからです。

そこで、どのように考えて事業承継を進めればいいのでしょうか。ここでは「最適な事業承継の年齢やタイミング、作業全体の進め方」について解説していきます。

65~70歳で社長交代するケースが多い

まず、どの年齢のときに引退する社長が多いのでしょうか。これについて、中小企業庁の発表によると65~70歳が最も多くなっています。つまり、それなりに高齢の段階になって事業承継するケースがほとんどといえます。

例えば30歳のときに子供が生まれたとすると、65~70歳で事業承継するとき、子供の年齢は35~40歳になります。そのため、事業承継のタイミングとしてはそこまで悪くありません。

親族内承継をするとき、子供の年齢が50歳以上であると微妙です。実際のところ、高齢になるほど新しい事業に取り組むことができず、思考が凝り固まる傾向にあります。新しいテクノロジーについていくことができないのです。

実際、事業承継のときは子供の年齢が30代と若いほどその後の業績が伸びることが分かっています。以下の通りです。

出典:中小企業庁・中小企業の事業承継に関するアンケート調査

ここでは、事業承継で会社を引き継いだ社長の年齢ごとに「経営者変更後に会社が成長したかどうか」のレポートが記されています。これについて、40歳未満など新社長の年齢が若いほど会社の業績は良くなり、引継ぎ後の年齢が高くなるほど業績は良くならないことが図から分かります。

本人は気が付かなくても、年齢を重ねるとどうしても判断能力が鈍くなり、固定概念にとらわれるようになります。そのため、子供の年齢が30代のときに社長交代するのが優れています。どれだけ遅くても、後継者が40代のときまでには事業承継しなければいけません。

親族内や親族外を含め、新社長の育成に時間がかかる

それでは、一般的にはどれくらいの時間が事業承継に必要になるのでしょうか。これについては、通常は5~10年の時間が必要になるといわれています。これは、中小企業庁のレポートでも明記されています。

そのため社長交代を65~70歳で行うのであれば、どれだけ遅くても60歳には事業承継のために動き始めなければいけないことが分かります。これは、新社長の育成に時間がかかるからです。

もちろん親族内承継に限らず、社員・役員に会社を渡す親族外承継を考えている経営者も多いです。ただ、そうした親族外承継であっても5~10年などある程度の年月をかけて新社長を育成し、経営者として就任させるのが一般的です。

少なくとも、1~2年ほどの短い期間だけで社長の座を後継者に渡すオーナー社長はいません。

株価対策で5年以上は必要

これについては、株価対策の面でも同様です。たとえ家族経営の中小企業であっても、株価が高額になっていることはよくあります。同族経営でも株価総額1億円ほどは普通であり、これでは当然ながら後継者は贈与税や相続税などの費用を支払うことができません。

そこで、会社価値を引き下げることによる株価対策を積極的に実施します。ただ、株価対策には5年以上の時間をかけるのが基本です。

例えば、株価算出をするときは類似業種批准価額という方法が広く活用されています。類似業種批准価額では、ザックリと以下のような計算式を使います。

つまり、「配当」「利益」「純資産」の3要素を下げれば株価下落が可能になります。ただ、利益や純資産については「前期や前々期の決算書を参考に決める」ようになります。そのため、いますぐ会社の利益を減らしても意味がなく、決算をまたがなければ株価に反映されません。

また当然ながら、1年で急激に株価を減らすことはできません。毎年、株価対策を実施することで徐々に利益や純資産を減らしていく必要があります。

法人保険の株価対策は数年が必要

実際のところ、数年の期間がなければ株価を大きく下落できないケースは多いです。例えば、生命保険(法人保険)は節税対策のために広く活用されています。この中でも、事業承継のタイミングで広く活用されている商品に長期平準定期保険があります。

100歳までなど長期契約の法人保険であり、90歳など長く解約返戻率が伸びていくタイプの生命保険です。

法人保険を利用すれば会社の利益を減らすことができるため、株価対策で広く利用されています。長期平準定期保険の場合、支払保険料のうち4割を損金にできます。

また解約返戻率は約85%であるものの、「配当ありの長期平準定期保険」に加入することで、20年などの期間が経過すれば解約返戻率は100%近くになります。そこで会社に大きな損失を作って株価を下げつつ、簿外資産を作れるようになります。

なお生命保険に加入後は払い済み(保険料をすべて支払ったことにして、それ以降の支払いをやめること)にすることが可能です。そのため、高額な支払いを最初の数年だけ行い、株価を下落させて事業承継させた後は払い済みをすればいいです。

ただこうした法人保険による節税対策をするためには、どうしても数年の期間が必要になります。

M&Aでも1~2年は必要

ただ、親族内や親族外での事業承継がすべてではありません。事業承継のやり方としては、M&Aという方法もあります。他の第三者に会社や事業を売却してしまうのです。

後継者を見つけて株価対策を実施する方法に比べると、M&Aは期間が短いです。そのため、5年などの時間を待つ必要はありません。

しかし、それでも1~2年ほどの時間はどうしてもかかります。M&Aを実施するときの流れや手続きをザックリ記すと、以下のようになります。

  • 自社紹介資料の作成や企業の磨き上げを行う
  • 売却先企業の選定を行う
  • 交渉を行い、売却をする

良い売却先を見つけるには選定までに時間が必要ですし、高値で売るためのプレゼン資料を作成しなければいけません。当然、条件交渉も必要になってきます。場合によっては、売却先が急に難色を示し始めて話が流れ、次の売却先を見つけるためにゼロからスタートしなければいけなくなるかもしれません。

こうしてM&Aを進めていきますし、会社売買の契約書を結んだ後も「それまでお世話になった得意先へ説明する」などを含め時間を取られるようになります。そのため、1~2年はどうしてもかかると考えましょう。

経営者交代での事業承継や登記の進め方・手続き

それでは、実際に事業承継をするための進め方や手続きとしては何があるのでしょうか。最適なタイミングや後継者の年齢が分かったとしても、全体の流れが分からないと作業を進めることができません。

これについては、ザックリと以下のようになります。

  1. 親族内・親族外・M&Aのどれを採用するのか決める
  2. 税理士など、専門家に依頼する
  3. 株価対策など、必要な手続きを実行に移し社長交代する

代表者変更については、法人登記さえすればいいので簡単です。ただ、法人の事業承継では株式を移さなければいけません。株式会社でない場合は「持分を後継者に移す」などになりますが、いずれにしてもこうした株式を後継者へ移動させなければ事業承継は完了しません。

そこで、株式を誰に託すのか後継者を最初に決めるようにしましょう。親族内や親族外、M&Aと大きく3つの方法があるため、どれかを選択するのです。

また、同時に専門家に依頼しなければいけません。自分で株価を計算したり、登記したりするのは不可能に近いため、それなりにお金はかかっても事業承継では、どのようなケースであっても専門家へ依頼することになるのです。

その後、株価対策を実施しての生前贈与や法人保険の活用、相続対策などを実施していきながら事業承継を進めていきます。

節税に強い専門家を見つけ、言う通りに動くべき

ただ、実際のところ最も重要なのは「節税に強い専門家を見つけること」にかかってます。例えば1億円の資産がある場合、相続や事業承継で依頼する専門家が異なるだけで納税額が1,000~2,000万円以上も違ってくるのは普通です。

事業承継は人生で一回経験するかどうかであり、手続きや登記の流れ、株価対策の方法を含め熟知している経営者はほぼいません。

そのため、早めに事業承継の対策を検討するべきなのは変わりませんが、このとき一番のキモになるのは「相続や事業承継での節税に強い専門家に依頼できるかどうか」にかかっているといえます。

実際のところ事業承継する場面では、希望する事業承継の内容(長男を社長に据えたいなど)を伝え、専門家のいう通りに動くだけとなります。事業承継では選択肢や注意点が多いためです。

  • 最適な節税方法は何か
  • 遺留分に引っかからないように財産を移すには
  • そのとき利用できる国の優遇税制は何か

これらを考慮しなければいけません。また、事業承継を実現するスキームは無数に存在するため、そうした中から最適な案を提示してくれる専門家である必要があります。

こうした現状のため、税理士など節税に強い専門家を見つけ、内容に納得したうえで言われるとおりに動くのが最適なやり方だといえます。

例えば、会社設立したり代表者変更したりなど登記するとき、司法書士に依頼して言われるがまま書類に法人印を押し、登記手続きを代行してもらった経験が一度はあるはずです。これと同じだといえます。

ビジネスでは、面倒なことは専門家に依頼することで業務を丸投げし、自分が実践している事業に集中するのが鉄則となります。これは相続・事業承継の場面でも同じなのです。

社長から会長職に就任し、後継者の育成に専念する

ただ社長として活躍してきた人であると、死ぬまでビジネスをしたいと考える人が非常に多い傾向にあります。特に創業社長であるとこの傾向が強いです。私も自らビジネスをして会社経営しており、死ぬまでビジネスを続けたいと考えています。

しかし前述の通り、社長交代は早い段階から考えなければいけません。そうしたとき、経営者の座を後継者に譲らなければいけないのであれば、ずっとビジネスを継続することができないのではと考えてしまいます。

ただ、そうした心配は不要です。さすがにM&Aでは無理ですが、親族内承継や親族外承継であれば、社長退任後に会長職へ就任すれば問題ありません。むしろ、そうした形式を採用する会社のほうが多いです。

もちろん名実ともに会長になっている必要があるため、経営権のほとんどは後継者の社長に譲ります。そうして、会長として後継者の育成や社員の補助、外部企業との取りまとめなどを担当していくのです。これにより、間接的にビジネスに携われるようになります。

・会長職になれば節税にもなる

また、会長職に就任するのは節税の観点でも優れています。社長退任のときは高額な退職金を支給されることになりますが、会長職についても辞めるときに再び退職金を支給できるようになっています。

代表の座にしがみつくよりも、早めに退任してしまったほうが節税面では圧倒的に大きな得をすることができるのです。

当然、会長に就任すれば同じように役員報酬が入ってくるため、収入が途切れることもありません。また経営は後継者に任せているため、自由に旅行へ行ってもいいです。そのため、かなり自由な身になることができます。

新事業をする人も非常に多い

または、このときは新たな会社を作って新事業を開始しても問題ありません。65~70歳で代表者交代するにしても、経営者としてそれまで活躍していたのであれば問題なく事業を興して軌道に乗せる時間が残っています。

有名なのは、65歳で起業してケンタッキーフライドチキンを立ち上げたカーネル・サンダース氏のケースです。その後、彼はフランチャイズの仕組みを考えて70歳でフランチャイズ契約を取るためにアメリカ中を回ります。そうして、73歳のときには600店舗を超えるまでに成長しました。

実際のところ、65歳や70歳といっても元気な人が大多数です。そのため、いままで経営者として会社を引っ張ってきた人であれば、新規事業を立ち上げて頑張ろうとする人が多いのです。

・家族信託を利用すれば親族に引き継げる

ただ、新会社を立ち上げると再び相続や事業承継の問題が発生するようになりますが、このときは家族信託を利用するといいです。家族信託はさまざまな方法を利用でき、このときは「オーナー社長が認知症を発症したり、死亡したりすれば家族に株式を渡す」という契約に設定しておきます。

契約形式は以下のようになります。

  • 委託者(依頼する人):オーナー社長
  • 受託者(株を管理する人:社長):オーナー社長
  • 受益者(株の受取権利がある人):親族の後継者

高齢起業での一番のリスクは代表者本人の病気です。急に脳卒中・脳梗塞を発症して認知症の状態に陥るかもしれませんし、心筋梗塞で急死するかもしれません。そうしたとき、何も対策を練っていなければ大変なことになります。

そこで、事前に家族信託を締結しておきます。前述の通り、認知機能が落ちたり死亡したりしたとき、親族の後継者に全株式が渡るように設定しておくのです。

もちろん贈与税や相続税の支払いは必要になるものの、親族としては「新会社という別の資産が増える」ことになるので喜んでくれます。また急な病気を発症しても、家族信託であれば特定の親族(一人の人間)に株式を集中できるので問題なく引き継いでくれます。

事業承継すると「引退後は仕事ができない」と考える経営者は多いですが、新規事業を立ち上げればいいだけなので、これについては特に心配する必要はありません。完全ゼロからビジネスを作ったり、前会社の子会社として新事業を始めたり、いずれにしても精力的に活躍することができます。

全体の流れを知り、社長交代するべき

どのようなタイミングで事業承継を実現すればいいかというと、後継者がある程度の社会経験を積んだ30代のときだといえます。後継者の年齢が40代だとギリギリであり、できるだけ早めに事業承継を終えることで代表者変更をしなければいけません。

ただ、事業承継では株価対策を実行に移すために5年以上の時間がかかります。M&Aであれば1~2年ほどですが、親族内承継や親族外承継(社員・役員に継がせる)などを考えている場合、どうしても時間がかかってしまうのです。

そこで、節税に強い専門家を探すようにしましょう。どのような手続きが必要なのかについては事業承継スキームによって大幅に異なるため、専門家に全体の流れを確認したうえで株価対策や登記を進めていくといいです。

そうして社長交代した後、経営者は会長に就任してもいいし、新事業をスタートさせても問題ありません。当然、このときは家族信託を設定するなど正しやり方が存在します。

こうした全体像を理解したうえで、早めに事業承継を実施するようにしましょう。1年で事業承継などは完了できないため、時間にゆとりをもったうえで経営者交代を実施するといいです。

法人・個人事業主の事業継承で、一瞬で3,500万円以上を節税する税金対策

法人や個人事業主では、いつかの時点で必ず事業承継する必要があります。このとき問題になるのは「誰にどの事業を移すのか」「節税したうえで事業譲渡する」ことに尽きます。

その中でも特に節税は重要であり、ほとんど儲かっていな事業主でも「事業価値が1億円以上」となるのは普通です。このときき、そのままの状態で生前贈与すると5,000万円以上の税金となり、事業承継がきっかけで後継者は破産します。

そこで税金対策を講じることにより、事業承継で発生する無駄な税金を抑えなければいけません。親族トラブルが起こらないように調整するのは当然として、早めの節税対策が必須になるのです。

「税金をゼロにする優遇税制」「会社価値を一気に6割減にできる法人保険」など、事業承継では無数のスキームが存在します。そこで、事業承継に特化した専門家を紹介します。これにより、高額な節税を実現しながらもスムーズな事業の引き継ぎが可能になります。

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