法人経営において、株式の分散は避けなければいけないポイントの一つです。いろんな人に株式が分散してしまうと、会社の決議が進まずうまく事業が回らなくなるからです。

ただ、事業承継として生前贈与や相続をする場面では、自社株引き下げによる節税対策のために株式を他の人へ譲渡することがあります。また、相続によって特殊な株式が他の人へ渡ってしまうこともあります。

そうしたとき、一定の条件が発生したときに会社が強制的に、譲渡した株を買い戻せるように設定しておくと安心です。こうした株式に取得条項付株式(しゅとくじょうこうつきかぶしき)があります。

取得条項付株式を事前に設定しておけば、無用な株式の分散を防ぐことができます。そこで、「事業承継のときに、どのように取得条項付株式を利用すればいいのか」について解説していきます。

特定事由の発生で強制買取可能な種類株式

取得条項付株式は種類株式の一種になります。種類株式とは、特別な機能を有する株式を指します。

通常の普通株式だと、株式の売買をするにしても、売主買主双方の同意が必要になります。それに対して取得条項付株式の場合、特定条件が発生することで会社が強制的に株式を買取できるようになっています。

どのような条件が発生すれば会社が買取できるのかについては、事前にどのように定めるのかによって違ってきます。例えば、以下のような条件を設定することができます。

  • オーナー社長が死亡し、相続が発生したとき
  • 役員・社員が退職したとき
  • 株式を発行し、5年が経過したとき

こうした条件を定めておけば、実際の定めた通りの事由が発生したとき、会社が株式を強制買取できます。こうして株式の分散を防げます。

相続発生で取得条項付株式が重要な理由

例えば、相続が発生する場面を考えてみましょう。株式譲渡(売買)や生前贈与をする場合、特定の後継者一人に株式を分け与えることができます。

ただ、先代のオーナー社長がすべての株式を後継者へ渡す前に死亡してしまうケースは多いです。そうなると、株式はいろんな相続人へ分散されることになります。

そうしたとき、事前に取得条項付株式を設定しておきます。具体的には、「相続が発生したら、親族が相続した株式を、会社が買取する」と定めておきます。そのため相続が実際に発生したら、一定事由に該当するので株式の買取が可能になります。

一般的に株式を保有したまま死亡すると、その時点で親族に株式が分散されてしまいます。ただ、取得条項付株式としておけば株式が分散することはなくなります。

それまでに株式譲渡や生前贈与によって後継者へ株式を渡していた場合、相続が発生したとしてもその瞬間に会社が強制買取するため、後継者が100%株式を保有することには変わりがありません。そのため会社経営がスムーズになります。

少数株主の排除が重要となる具体例

それでは、少数株主(少ない割合で株式を保有する株主)が会社経営に悪影響を与える理由について、具体例を用いて解説していきます。

例えば、オーナー社長(父親)が株式の60%を保有し、後継者(兄)が株式40%を保有していたとします。このとき、オーナー社長が死亡したら相続が発生します。その結果、配偶者の妻や子供など他の相続人にも以下のように株式が分散することになります。

  • 妻:60% × 1/2 = 30%(相続分)
  • 後継者(兄):40%(既存保有分) + 60% × 1/4(相続分) = 55%
  • 妹: 60% × 1/4(相続分) = 15%

このとき、もしかしたら妹が色気づいて「もっと会社から役員報酬をもらいたい」と主張し始めるかもしれません。ただ、この場合だと妹を排除しようとしても後継者が株式の3分の2以上を保有しているわけではないので勝手には排除できません。

また、死亡した父親の妻(配偶者)と妹が結託すると、より会社経営はうまくいかなくなります。

これらのリスクを解決し、少数株主を排除する方法の一つが取得条項付株式になります。早めに事業承継の対策を実行に移すからこそ、後継者は円滑に会社を経営できるようになるのです。

株式を買取後、お金や無議決権株式の対価を与える

ただ、株式を強制買取するとき、無償にて買取できるわけではありません。株価に応じた、それなりの対価を支払う必要があります。

このとき分かりやすい対価は金銭です。株価に応じたお金を渡すことで、問題なく株式の買い戻しが可能になります。当然、株価が高くなっているほど会社からお金が消えていくようになります。そのため、金銭を渡して株式の買取をする場合、事前の株価対策が必要になります。

株価を抑えるほど、株式を買い戻すときのお金を少なくできます。そのため、このときは株価の引き下げが重要になります。

・無議決権株式・議決権制限株式を代わりに渡す

ただ、このとき株式を買取するとき、対価として必ずしも金銭を渡す必要はありません。債権や株式でも問題ないです。

よく行われるものとしては、無議決権株式や議決権制限株式を対価として渡すことがあげられます。同じ株式であるため、価値(評価額)は基本的に同じだと考えて問題ありません。そのため、会社のお金を移動させる必要がなくなります。

無議決権株式や議決権制限株式とは、その名の通り議決権がなかったり、制限されていたりする種類株式になります。特に利用されるのが無議決権株式であり、完全に議決権がないので事業承継の場面では使い勝手のいい株式になります。

そこで相続が発生したとき、取得条項付株式として設定している「議決権のある株式」を取り上げ、その代わりとして無議決権株式を与えます。これにより、お金の支払いなしに後継者へ議決権を集中させることができます。

株式は分散したままであるものの、会社経営で重要なのは「どれだけ議決権が社長に集まっているか」にかかっています。そのため経営を行う上では、無議決権株式も含めて有効活用するといいです。

黄金株や役員選任権付株式の買取は重要

また、他の特殊な株式として黄金株や役員選任権付株式があります。事業承継をする場面では、こうした特殊な株式(種類株式)を活用することがあります。

黄金株は拒否権付種類株式と呼ばれており、強力な拒否権を行使することができます。

事業承継のとき、オーナー社長から後継者へバトンタッチするとき、後継者が未熟のためきちんと経営できるかどうか不安なケースがあります。そうしたとき、拒否権を行使できる黄金株を1株でも保有しておけば、株主総会での後継者の無謀な意思決定をくつがえして拒否することができます。

こうした非常に強力な種類株が黄金株であり、後継者の暴走を止めることができます。

また、取締役など役員の選任決議が可能な株式として役員選任権付株式があります。役員選任権付株式についても、社長を退いた後でも会社の経営を見守りたいとき、元社長が保有するケースが多いです。

ただ、相続によって黄金株や役員選任権付株式が他の人の手に渡ってしまうと、会社経営がとん挫するようになります。後継者以外の人が、強力な権限のある株式を保有することで、円滑な意思決定ができなくなるのです。

そこで、こうした黄金株や役員選任権付株式については取得条項付株式としておきます。相続が発生したときに会社が買取することで、他の人に渡らないようにするのです。事業承継の対策を検討するあまり、強力な株式を発行するときは同時に取得条項付株式にすると後継者が困らなくなります。

役員や社員に株式交付するときも有効

また、オーナー社長の死亡を一定の事由として買取するだけが取得条項付株式を利用するメリットではありません。他の場面でも活用されることがあります。

例えば、経営判断で役員や社員に対して株式を譲渡することがあります。役員については、経営に参加してもらうために株式を発行するかもしれません。また社員であれば、従業員持株会を活用することで株価を大幅に引き下げることで節税できることが知られています。

ただ、役員や社員に株式を発行する場合、後継者ではないのでいつかは退職します。そうしたとき、普通株式を保有したまま辞められると、株式がいろんな人の手に分散してしまうので大変です。

このとき話し合いで買取できるのならいいですが、けんか別れしたために話がこじれることもあります。そこで事前に取得条項付株式として株式を渡します。

そうした場合、退職を一定事由と定めておけば辞める場面で会社が買取できるようになります。退職と共に強制買取が可能なため、経営判断をするときに変な要求をされることはありません。

・買取価格を事前に決めておくとやる気が出る

なお、役員や社員に対して株式を交付し、後で買取するとなると役員や社員にとってメリットがないように思えます。ただ、取得条項付株式の買取価格については事前に決めておくことができます。

そこで、役員や社員に対してプレミアムを与えるようにするといいです。例えば、「発行時の価格に対して、純資産増加分の割合を加えて買取する」などのように定めておきます。

こうした買取価格であれば、会社の業績が上昇するほど純資産(内部留保)が増え、会社が買取してくれる株価が上昇していきます。その結果、役員や従業員はやる気を出してくれます。

株主総会で定款変更し、登記して種類株式を取得する

それでは、どのようにして取得条項付株式を取得できるようになるのでしょうか。これについては、株主総会を開催して定款変更する必要があります。

定款に明確に記すようにしますが、定款変更には株主総会での特別決議(3分の2以上の賛成)が必要になります。特別決議とはいっても、中小企業だとオーナー社長が株式のほとんどを保有するため、実際には紙切れ一枚を残すだけとなります。

そうして定款変更し、既に発行している株式を取得条項付株式にしたり、新たに取得条項付株式を発行したりします。そうすれば、取得条項付株式を取得できるようになります。

また、同時に「どのような一定事由が発生すると会社が買取するのか」についても定款で定めるようにします。

その後、登記事項でもあるので登記します。司法書士に依頼する必要はありますが、登記することで正式に種類株式を活用できるようになるのです。

なお、相続が発生して株式が分散してしまった後だと株主総会での特別決議が難しくなります。そのため、できるだけ早い段階で株主総会を開催して定款変更し、事業承継の対策を練ることで手続きを進めなければいけません。

自己株式の取り扱いに注意し、贈与や相続の対策を練るべき

どれだけの割合で株式を保有し、出資しているのかによって会社の支配権が変わってきます。そのため相続では少数株主をできるだけ排除し、スムーズに意思決定できるように注力しなければいけません。

ただ、オーナー社長が株式を保有した状態で死亡すると高確率で自己株式が分散します。自社株がバラバラになると、後継者はうまく会社運営できなくなります。ただ、取得条項付株式を設定していればこの問題を解決できます。

これは役員や社員など他の人に株式を分け与えるときも同様です。「退職時に買い戻す」という取得事由を加えることで、株式の分散を防げます。

このように考えると、事業承継で取得条項付株式は重要です。できるだけ分かりやすく、具体例を交えて解説してきましたが、特別な機能を持つ取得条項付株式を利用することでうまく社長交代できるように仕向けるといいです。

法人・個人事業主の事業継承で、一瞬で3,500万円以上を節税する税金対策

法人や個人事業主では、いつかの時点で必ず事業承継する必要があります。このとき問題になるのは「誰にどの事業を移すのか」「節税したうえで事業譲渡する」ことに尽きます。

その中でも特に節税は重要であり、ほとんど儲かっていな事業主でも「事業価値が1億円以上」となるのは普通です。このときき、そのままの状態で生前贈与すると5,000万円以上の税金となり、事業承継がきっかけで後継者は破産します。

そこで税金対策を講じることにより、事業承継で発生する無駄な税金を抑えなければいけません。親族トラブルが起こらないように調整するのは当然として、早めの節税対策が必須になるのです。

「税金をゼロにする優遇税制」「会社価値を一気に6割減にできる法人保険」など、事業承継では無数のスキームが存在します。そこで、事業承継に特化した専門家を紹介します。これにより、高額な節税を実現しながらもスムーズな事業の引き継ぎが可能になります。

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