相続税の節税対策として、多くの人が利用するものに生前贈与があります。相続税対策として非常に有効であり、効果の高い手法が生前贈与なのです。
ただ、節税のために生前贈与するにしても「死亡して相続が開始されたとき、その開始前3年以内に生前贈与した財産は相続税の対象になる」という決まりがあります。これが生前贈与加算による3年以内のルールです。
しかし中には、生前贈与加算の対象にならない贈与が存在します。また、相続人以外(孫など)への贈与であれば加算の対象外になります。
相続開始前3年以内の財産取得については、細かいルールが定められています。そこで、どのようにして正しく生前贈与を行い、節税すればいいのか解説していきます。
もくじ
何年前まで?死亡3年以内(死亡直前)の譲渡は意味がない
生前贈与には毎年110万円の非課税枠があります。単一年に高額な財産を渡すと贈与税が高くなるものの、何年にも分けて渡せば無税になるのです。
また譲渡するべき財産が多い場合、110万円を超えて贈与しても問題ありません。300万円を贈与するにしても、贈与税は19万円(全体の税率は約6.3%)です。
そのため生前贈与は相続税の節税対策で活用されますが、死亡3年以内に贈与・取得された財産については、「生前贈与ではなく相続財産に含め、相続税を課す」ようになっています。死亡後、贈与してから3年以上が経過している場合は関係ないですが、死亡3年以内の贈与は無効化されるのです。
例えば、4年間に渡って7月1日に100万円を生前贈与しているとします。このとき、9月1日に亡くなったのであれば、過去3年分の生前贈与(100万円 × 3年 = 300万円)については否認されます。
生前贈与加算があるため、例えば死亡の直前になって急いで節税したいと考えたとしても、死亡直前に譲渡した生前贈与分は否認されるので贈与の意味がなくなっています。
相続税の節税対策を早めに検討しなければ意味がないのは、「死亡前3年の期間については、生前贈与による節税対策が否認される」という事実も含まれているからなのです。
3年以内の期間で否認されても二重課税はない
ただ、このとき生前贈与によって多めの金額を譲渡しており、贈与税を支払っている人もいます。そうした場合、「既に贈与税を支払っているにも関わらず、さらに相続税まで加算されて二重課税になるのでは?」と心配してしまいます。
例えば300万円の贈与であれば、前述のとおり贈与税は19万円です。このとき、死亡時点で8,000万円の課税財産がある場合、生前贈与加算を適用されると「8,000万円(死亡時点の財産) + 300万円(贈与分) = 8,300万円」が相続税の課税財産になります。
しかし、8,300万円のうち300万円分は既に贈与税として税金を支払っています。300万円の部分については、贈与税と相続税の2つを課せられるため、二重課税になるのです。
ただ、これについては心配しなくても問題ありません。二重課税は違法であり、贈与税として支払った分について相続税から控除できるようになっています。
例えば贈与税として19万円(300万円の贈与)を支払っているのであれば、生前贈与加算を適用されて相続税を支払うとき、贈与税支払いをした19万円を相続税から控除できるようになっています。こうして、二重課税がないように調整されています。
3年以内の亡くなる前の贈与で加算されないケース
基本的に死亡直前に贈与したとしても、ここまで説明した理由によって無意味になりますが、中には亡くなる前に生前贈与したとしても問題ないケースがあります。
これには、以下の事例が該当します。
- 配偶者控除を用いた生前贈与
- 新規で住宅を取得するときの生前贈与
- 生活費・教育資金での生前贈与
それぞれの生前贈与について、意味のない制度もあるので一つずつ解説していきます。
2,000万円の不動産の配偶者控除は損をする
生前贈与を実施するとき、20年以上の期間を連れ添った夫婦について、居宅用不動産を生前贈与する場合、2,000万円まで非課税になります。この制度を利用して、死亡直前に贈与したとしても3年以内加算は適用されません。
ただ、ほぼ確実に損をするので絶対に利用してはいけません。理由としては、相続税の配偶者控除は1億6,000円なので、よほどの富裕層でない限りは元々が無税だからです。
また相続で不動産を取得する場合、不動産取得税はゼロですし、登録免許税は通常の5分の1(取得価格の0.4%)です。ただ、生前贈与であれば不動産取得税が課せられますし、登録免許税についても満額の2%となります。以下は登録免許税の税率ですが、このことは国税庁の公式サイトにも明記されています。
しかも、相続では「小規模宅地等の特例」を使えるため、土地価格の8割減が可能です。しかし、生前贈与ではこうした特例がありません。
このように不利な点しか存在しません。確かに生前贈与加算での3年以内ルールは適用されないものの、死亡直前であったとしても利用しないようにしましょう。
住宅取得のために生前贈与するのは有効
なお、3年以内の生前贈与加算が適用されないケースとして、他にも住宅取得のための生前贈与があります。贈与資金を新築住宅・新築マンションの購入費用に活用する場合、300~700万円など高額な生前贈与が非課税になる制度になります。
この制度については優れており、多くの人が生前贈与することで高額なお金を非課税にて子供や孫に渡しています。
生前贈与の3年以内加算が適用されないため、子供や孫が家を建てることが確実な場合、死亡直前に贈与して節税対策を実行に移しても問題ありません。
注意点として、「生前贈与された翌年3月15日までに住宅に取得し、実際に住んでいる」という条件があります。生前贈与したが実際には住んでいない場合、非課税での贈与は否認されます。
子供や孫への生活費・教育資金は元々が非課税
他にも、生活費や教育資金に関する資金贈与については元々が非課税となっています。
子供や孫が結婚するとき、親や祖父母が資金援助することはよくあります。また、子供が高校や大学に進学するとき、学費は親などが負担します。転居費用や家賃について、親や祖父母が負担することも普通です。
そうしたとき、贈与税を支払ったというケースをあなたは聞いたことがないと思います。また、税務署についても贈与税を課したケースはありません。これは、元々が贈与税を課せられないルールになっているからです。これについては以下のように、国税庁も公式に認めています。
生活費や教育資金について、ここにある通りそのつど贈与する場合は非課税です。そのため、当然ながら3年以内の生前贈与加算も存在しません。
前もって教育資金を生前贈与する制度はありますが、これだと生前贈与加算の適用となります。ただ、そのつどの贈与であれば贈与税とは関係なくなると考えるようにしましょう。そのため亡くなる前に生活費や教育資金を代わりに出してあげることは、優れた相続税対策の一つになります。
孫など相続人以外は対象外
ただ、亡くなる前の3年以内について生前贈与加算を課せられるのは「相続人である」という条件があります。つまり、相続人以外であれば死亡直前に贈与したとしても3年以内加算は適用されないと考えるようにしましょう。
そのため生前贈与については、子供ではなく孫へ贈与するほうが有利になります。3年以内の生前贈与加算がないからです。
例えば、以下のようなケースがあるとします。
この場合、祖父(父親)の死亡によって相続人となるのは配偶者(祖母:母親)と子供2人(長男と妹)になります。そのためこれらの人が生前贈与された場合、死亡前3年以内の贈与分は「相続財産に含めて計算する」ことになります。
一方で相続人以外である孫などへ亡くなる前に生前贈与したとしても、相続税評価額に含めなくても問題ないようになっています。
同じことは、長男の妻への贈与でもいえます。息子や娘の配偶者に贈与したとしても、相続人ではないので生前贈与加算の対象にはなりません。そのため離婚しないことが確実な場合、こうした人へ亡くなる前に生前贈与してしまい、生活費に充ててもらっても問題ありません。
・代襲相続があると孫は相続人になる
なお、基本的に孫は相続人にならないものの、代襲相続があると相続人になってしまいます。これは、「子供(孫の親)が既に死亡しているとき」が該当します。
本当は起こってほしくないものの、親(今回死亡した人)よりも先に子供が死亡しているケースがあります。そうしたとき、孫(「先に死亡している子供」の子)がいるのであれば、「先に死亡している子供」の代わりに孫が相続する権利を得るようになります。
これが代襲相続であり、代襲相続の場合だと孫は相続人になります。この場合、孫は相続人なので当然ながら生前贈与加算の対象となります。
なお、孫が養子になっている場合も同様に相続人になります。そのため、養子として迎え入れている孫についても生前贈与加算が適用されます。
遺言や生命保険で財産を受け取ると死亡3年以内は相続税になる
また、たとえ相続人ではなかったとしても、場合によっては生前贈与加算の対象になってしまうことがあります。これについて、以下のケースが該当します。
- 遺言によって財産を受け取っている
- 生命保険による死亡保険金を受け取っている
特定の人に財産を譲渡できる制度に遺言があります。このときの遺言に従い、孫が現金や不動産などの財産を受け取っているのであれば、相続人と同じ扱いになってしまいます。そのため、死亡3年以内に譲渡された財産は相続財産に加えられるようになります。
同じように、特定の人に現金を渡せる仕組みに生命保険があります。事前に生命保険へ加入しておき、死亡保険金として孫へ多額の現金を渡すようにするのです。このときについても、死亡3年以内に贈与された財産は相続税の対象になります。
早めの相続対策が重要な理由
ここまでの内容を理解すれば、なぜ相続対策を早めに実施するべきなのか理解できると思います。急病を患い、亡くなる前に急いで生前贈与などの相続対策を実施したとしても、結局のところ相続税対象に加えられてしまいます。
生前贈与加算により、死亡の直前に生前贈与し、低い税率にて財産を譲渡しようと思っても否認されるのです。
また実際のところ、死亡の直前に相続対策を実践したとしても無効であったり、あまり効果がなかったりするケースはよくあります。
相続税対策というのは、長期的スパンで何年にも渡って実施するからこそ意味があると考えましょう。死が近づいた段階で、急いで節税を検討したとしても行えることは限られてしまい、あまり効果はないのです。これが、早めに相続対策を実施するべき理由になります。
相続時精算課税制度は必ず相続税に含める
ここまでは、一般的な生前贈与(毎年110万円の非課税枠を使った贈与)について解説してきました。ただ、中には相続時精算課税制度を利用している人もいます。つまり、2,500万円まで非課税になる相続時精算課税制度もあるのです。
実際のところ、相続時精算課税制度は利用しないほうがいい制度になります。2,500万円の非課税というと、非常に優れているように思えてしまいます。ただ、生前贈与でその場は非課税になっただけであり、死亡前3年以内に限らず何十年も前にさかのぼって生前贈与分を相続税評価額に含めるようになっています。
例えば、以下のような状況だったとします。
- 相続時精算課税制度で2,000万円を生前贈与
- 死亡時の財産が5,000万円
この場合、「2,000万円(生前贈与した財産) + 5,000万円(死亡時の財産) = 7,000万円」に対して相続税を課せられます。
相続時精算課税制度というのは、その名の通り「それまで生前贈与で非課税にしてあげた分について、相続時に合算して税金を支払ってください」という制度になります。そのため、利用する意味はほとんどありません。
しかも、相続時精算課税制度を利用すると「毎年の110万円の非課税枠を利用できなくなる」などデメリットが大きくなります。既に選択してしまった場合は取り消しできないので手遅れですが、この場合は3年という括りではなく、過去に実施した生前贈与分はすべて相続税に加えられると考えましょう。
相続開始前の3年以内の譲渡は意味がない
死亡直前に贈与したとしても、相続税に加えられるので意味はありません。何年前までさかのぼって考えるかというと3年になります。3年よりも前の贈与については節税対象になるものの、死亡前の3年以内の期間は相続税評価額に加えなければいけません。
もちろん、中には生前贈与加算の適用外になるケースもあります。新築住宅のための贈与であったり、生活費・教育資金の贈与であったりすれば関係ありません。
または、孫など相続人以外へ生前贈与する場合についても生前贈与加算の範囲外になります。そのため死亡直前であれば、子供ではなく孫へ積極的に贈与することで節税対策を考えましょう。
ただ、より早い段階から相続対策を実施しておけば、より高度な節税が可能になります。相続対策は計画的に何年も前から実施するほど優れた効果を得られるため、生前贈与加算を踏まえたうえで節税策を検討するようにしましょう。
生前対策や相続税申告の場面では、依頼する専門家が非常に重要になります。相続に特化し、さらには節税や不動産、株式などにも精通した専門家に依頼しないと相続税が非常に高額になるためです。
実際のところ、正しく相続対策を講じていないため多くの人が損をしています。
ただ、相続に大きな強みをもつ専門家を厳選したうえで相談すれば、通常よりも税金が1,000万円も違うのは普通です。また、当然ながら実務経験が多く知識のある専門家に依頼するほど、相続後の争いも少ないです。
そこで、当サイトでは相続に特化した専門家を紹介しています。生前対策や相続税申告を含め、節税によって多額のお金を手元に残しながら遺産争いを回避できるようになります。