家族信託はザックリと考えると、「他の人に財産管理を依頼する手法」になります。このとき重要になるのが受託者(財産管理する人)の存在です。

委託者(依頼する人)や受益者(利益を受け取る人)が死亡したり、認知症を発症したりしたとしても、財産が凍結されることはありません。これは、受託者(財産管理する人)が代理人として活躍してくれるからです。

しかし、受託者に不幸があって死亡したり、受託者が認知症を発症したりすると財産管理の遂行ができません。そうしたときに備えて、複数の受託者を事前に選んでおくと効果的です。

信託契約を作る最初の段階で考えなければいけないことですが、既に契約をした後でも内容変更することも可能です。そこで、どのように第二受託者を指名すればいいのか解説していきます。

受託者が死亡・認知症だと信託できない

不動産を運用している人が認知症を発症すると財産が凍結され、さらには新たな契約を結べなくなります。そのため「本人のお金を利用してリフォームできない」「契約更新や新入居者との契約ができない」など困る事態に陥ります。

ただ事前に家族信託を設定していれば、そうした状態になったとしても受託者(財産管理する人)が問題なくすべての手続きを代行できます。信託とは文字通り「信じて託す」ことになるのです。。

しかし、受託者(財産管理する人)が死亡してしまったり、認知症を発症してしまったりすると財産管理ができなくなってしまいます。つまり、家族信託が意味のないものになってしまいます。そのため受託者が死亡・認知症となると、その時点で受託者から外れることになります。

ただ、そうなると次の受託者はどのようになるのか考えなければいけません。

複数の受託者として第二受託者を設定する

そこで、解決策として複数の受託者を事前に選任しておくといいです。家族信託(民事信託)を設定するとき、第二受託者や第三受託者について考えておき、信託契約の中に盛り込んでおくのです。

こうしておけば、もし受託者が死亡したり認知症を発症したりしても、第二受託者(新受託者)が承諾・就任することで信託契約は問題なく継続されるようになります。

たとえ最初の受託者が死亡したとしても、事前に複数の受託者を決めておけばすべての問題を解決できるようになるのです。

・相続人が受託者を引き継ぐことはない

なお受託者が死亡したとしても、死亡した受託者の相続人が「受託者としての地位を相続する」ことはありません。つまり、受託者(財産管理する人)の相続人が引き続き信託財産の管理をすることはないのです。

受託者(財産管理する人)とはいっても、財産を所有・管理する権限はあるものの、信託財産の利益を得られるわけではありません。受益者(利益を受け取る人)のために「不動産の賃料収入を受益者に支払う」「預金を管理し、受益者のために必要なものを支払う」などを実践することになります。

特別に財産から利益を得ているわけではなく、管理する権限を保有しているに過ぎないのです。

「親が医師資格を保有しているため、子供も医師資格を相続する」ことがないのと同じように、受託者(財産管理する人)の地位が相続され、相続人が受託者に就任することはないと考えましょう。

新たな受託者がいなければどうなるのか

それでは、第二受託者を設定しておらず、新たな受託者がいなければどうなるのでしょうか。まず、受託者(財産管理する人)がいなくても家族信託は継続します。つまり受託者が死亡・認知症になってしまい、第二受託者の定めがなかったとしても、信託契約は続行すると考えましょう。

しかし、受託者がいなければ財産管理する人がいないため、家族信託が意味のないものになってしまいます。受託者が決まるまでは財産が凍結されてしまうのです。

これを防ぐため、「受託者のいない状態で1年が経過した」という状態になると、自動的に信託契約が終了します。

【信託法163条(信託の終了事由)】

信託は、次条の規定によるほか、次に掲げる場合に終了する。

三 受託者が欠けた場合であって、新受託者が就任しない状態が一年間継続したとき。

信託契約が終了すれば、信託契約の内容に基づいて残った財産(残余財産)が分配されることになります。例えば、「受益者(利益を受け取る人)が残余財産を受け取る」と記されている場合、受益者がそのまま継続して財産を保有することになります。

受託者は委託者・受益者が選任できる

それでは、事前に複数の受託者(財産管理する人)を定めておらず、第二受託者や第三受託者が明確ではない場合、どうやっても受託者を選任することはできないのでしょうか。

これについては問題なく、委託者(依頼する人)と受益者(利益を受け取る人)が合意することによって、新たな受託者(財産管理する人)を選任できるようになっています。

【信託法62条(新受託者の選任)】

新たな受託者に関する定めがないとき、委託者および受益者はその合意により、新受託者を選任することができる。

ただ、家族信託(民事信託)は委託者(依頼する人)が死亡した後も契約が続くケースはよくあります。そうしたとき、委託者(依頼する人)が既に死亡してしまった場合はどうなるのでしょうか。

これについても問題なく、委託者が現存しない場合は「受益者(利益を受け取る人)で新たな受託者(財産管理する人)を決定できる」ことになっています。つまり、事前に第二受託者を定めていなかったとしても受託者(財産管理する人)を選任し、問題なく家族信託を継続できるようになっています。

・裁判所での申し立ても可能

参考までに、委託者(依頼する人)が認知症で判断能力が低下しているなど、委託者と受益者(利益を受け取る人)で合意できないこともあります。その場合、裁判所に申し立てをすることで受託者(財産管理する人)を選任してもらうことも可能です。

つまり、受託者(財産管理する人)を新たに選任するときの優先順位としては以下のようになります。

  1. 複数の受託者を選んでおき、第二受託者や第三受託者として選任
  2. 委託者と受益者(または受益者単独)の合意によって選任
  3. 裁判所への申し立てで選任

ただ、これらをせずに受託者(財産管理する人)がいなくなり、1年が経過すると自動的に信託契約が解除になるというわけです。

内容変更を含め、信託契約の見直しを行う

しかし、委託者(依頼する人)や受益者(利益を受け取る人)が合意をすることで、新たな受託者(財産管理する人)を選任できるとはいっても、スムーズに事が進まないケースも多いです。特に相続で争いが発生し、複数の受益者(利益を受け取る人)が存在する場合は合意に至りません。

この状態で受託者(財産管理する人)がいなくなると、家族信託の契約が続行されません。そのため第二受託者や第三受託者の定めがない場合、委託者(依頼する人)が生きている間に信託契約の内容変更を行うようにしましょう。

信託契約に「委託者(依頼する人)の意思によって内容変更できる」と記されている場合、委託者が自由に内容変更できます。そこで、第二受託者を事前に盛り込んでおくようにしましょう。信託内容変更をしておくのです。

家族信託のときに第二受託者や第三受託者まで指定していなかったとしても、後で内容変更が可能です。そのため受託者が複数指定されていない場合、早めに家族信託の内容を確認したうえで次の受託者(財産管理する人)を指定しておくといいです

家族信託の受託者がいなくなったときに備えるべき

相続の中でも、家族信託(民事信託)は非常に高い専門性を必要とする方法の一つになります。そのため信託契約を作るにしても、相続専門の司法書士に依頼しない場合はダメな契約内容になってしまうことが頻繁に発生します。

その一つが第二受託者に関する項目です。家族信託では必ず受託者(財産管理する人)を設定しますが、その後のことまで考えて複数の受託者を事前に決めておかなければいけません。

もちろん、ここまで述べた通り委託者(依頼する人)や受益者(利益を受け取る人)の合意によって、新たな受託者(財産管理する人)を選任することは可能です。ただ、委託者(依頼する人)が認知症を発症していたり、相続人で争いが起きていたりなどうまくいかないケースもあります。

これを避けるため、複数の受託者(財産管理する人)を設定することで、問題の起こらない信託契約を作りましょう。または、既に家族信託が動いているなら契約内容の変更を検討しましょう。

「受託者(財産管理する人)が死亡して慌てている」という状況に既に陥っているなら、信託契約が解除されないように動く必要があります。ただ、そのような事態に陥る前に対処することで、問題なく契約が進んでいくようにするのが最も望ましいといえます。

相続の専門家が違うだけで1,000万円以上も損する真実!

生前対策や相続税申告の場面では、依頼する専門家が非常に重要になります。相続に特化し、さらには節税や不動産、株式などにも精通した専門家に依頼しないと相続税が非常に高額になるためです。

実際のところ、正しく相続対策を講じていないため多くの人が損をしています。

ただ、相続に大きな強みをもつ専門家を厳選したうえで相談すれば、通常よりも税金が1,000万円も違うのは普通です。また、当然ながら実務経験が多く知識のある専門家に依頼するほど、相続後の争いも少ないです。

そこで、当サイトでは相続に特化した専門家を紹介しています。生前対策や相続税申告を含め、節税によって多額のお金を手元に残しながら遺産争いを回避できるようになります。

相続対策の相談応募のページへ