事前の相続対策の中でも、家族信託(民事信託)は非常にメリットが大きいです。ただ、実際に行うとなると気になるのが費用相場です。このときは司法書士に依頼することになりますが、どのような値段になるのか事前に知らなければいけません。
家族信託を自分で行うのは不可能なほど難しいです。また、自分でするとほぼ確実に契約内容に不備が出るようになります。実際、司法書士であっても相続専門で取り扱っている人でないと間違いを犯すほどです。
一見すると、家族信託の費用は高くなりがちです。ただ、ランニングコストは発生せず総合的に判断すると金額は安いです。
そこで、「どのように考えて家族信託を実施すればいいのか」について、金額相場の観点から確認していきます。
もくじ
どうしても家族信託(民事信託)は値段の相場が高い
一般的な感覚からすると、家族信託(民事信託)は費用が高くなります。それでは、どれくらいの金額になるかというと、ザックリと以下のようになります。
- 信託財産に不動産がない:40~60万円以上
- 信託財産に不動産がある(不動産信託):60~100万円以上
どのような財産を家族信託するのかによって値段が大きく変わるようになります。ただ、費用が低かったとしても家族信託で40万円以上の出費が発生するようになると考えましょう。また、不動産の信託が入ると60万円以上の金額になります。
相続税が発生する場合、税理士に50万円以上の費用を支払うことになるのは普通です。同じように、家族信託を司法書士に依頼するときも値段が高くなると考えましょう。
ランニングコストがなく、成年後見より安い
ただ、考えなければいけないのは「本当に司法書士へ支払う金額が高いのか?」ということです。
家族信託は一度でも締結すれば、ずっと効果を発揮させることができます。何世代にも渡って効力が続くため、思い通りの相続が可能になります。
また認知症を発症すると、「不動産の売却ができない」「賃貸マンションの新規入居者への契約や既存入居者への契約更新ができない」「満期保険金や定期預金の受け取りができない」など、資産が凍結されます。ただ、家族信託を利用すればこうした事態を防げます。
例えば私の場合、過去におばあさんが脳梗塞を発症して数日のうちに認知機能が急激に低下し、重度の認知症になったことがあります。このとき、家族信託を実施していなかったので資産が凍結されました。以下は実際のお見舞いの写真です。
こうした状況を脱する方法としては、成年後見人を付ける以外にやり方がありません。成年後見人が本人に代わって法的な手続きを代行することができるのです。ただ、成年後見人は非常に使い勝手が悪いことで知られています。
まず、家族が成年後見人に就任できることはほぼありません。高確率で司法書士などの専門家が選任されます。当然、外部の専門家へ依頼するのでランニングコストがかかり、報酬相場は月3~5万円です。しかも認知症はすぐに死亡するわけではないため、仮に10年生きるとなると安く見積もっても以下の金額の費用が必要になります。
- 月3万円 × 12ヵ月 × 10年 = 360万円
低い値段でこの金額のため、当然ながら実際にはもっと高額になります。一方で家族信託はランニングコストがゼロであるため維持費用は発生しません。
そうした事実を考えると、家族信託活用のための値段が急に安く思えてこないでしょうか。家族信託は相続対策に限らず認知症対策でも重要ですが、事前に家族信託を締結していれば成年後見制度の利用よりも圧倒的にお金を節約できます。
家族信託・不動産信託の手続きで必要な費用の項目
それでは、具体的にどのようなときに家族信託・不動産信託で費用が発生するのでしょうか。これについては、以下のようなものがあります。
・すべての家族信託で必要
- 司法書士によるコンサル料:30~50万円以上
- 契約書の作成&公正証書化のサポート料金:10~15万円
- 公正証書化の実費:3~10万円
・不動産の家族信託(不動産信託)で必要
- 司法書士への登記依頼費用:10~12万円
- 登録免許税:固定資産税評価額の0.3~0.4%
こうした費用が家族信託で必要になると考えましょう。それぞれについて、さらに詳しく解説していきます。
司法書士のコンサルティング報酬は信託財産の1%
実際に家族信託を実施する場合、司法書士によるコンサルティングを受けなければいけません。要は、どのような家族信託の設計にするのかを決めるのです。
家族信託は自由に契約内容を決めることができ、非常に内容は幅広いです。例えば、以下のような項目を決定していきます。
- 受益者(利益を受け取る人)を誰にするのか
- どの時点で家族信託を終了させるのか
- 第二受託者(財産管理をする二番目の人)は誰か
- 信託契約終了後は財産を誰に帰属させるのか
- 遺留分(最低限の財産相続分)への対策はどうするのか
一部を例示しましたが、家族信託・不動産信託では決めるべき事柄が非常にたくさんあります。これらを一つずつ決めておき、信託契約の中にすべて盛り込まなければいけません。当然ながら一つでも内容が欠けると、微妙な内容の信託契約になってしまいます。
そうした「司法書士に信託契約の内容設計をしてもらうためのコンサルティング費用」ですが、一般的には以下のようになります。
- 信託財産の1億円まで:1%
- 信託財産の1~3億円:0.5%
例えば、6,000万円の信託財産について家族信託をする場合は「6,000万円 × 1% = 60万円」のコンサルティング費用になります。ただ信託財産が1億円を超える場合、1億円を超過した部分については信託報酬が0.5%ほどになるのが相場です。もちろん、信託財産が3億円以上などより高額になる場合は報酬率がもっと下がります。
なお、信託財産が少ない場合もあります。このとき信託財産が3,000万円以下の場合、ほとんどの司法書士が「最低のコンサルティング費用として30万円に設定している」ようにしています。
もちろん、料金設定は自由に司法書士によって決められます。ただ、司法書士へ支払う最低コンサルティング費用が30万円になるのは一つの目安になります。
信託契約書の作成と公正証書化のサポートをしてもらう
なお、家族信託・不動産信託の契約内容を決めた後については、実際に信託契約書を作成しなければいけません。契約書を作り、委託者(依頼する人)と受託者(財産管理をする人)が署名することで契約を締結するようにします。
こうした契約書を作成するには、信託契約の内容を考えるコンサルティング費用とは別に、契約書の作成費用を支払うのが一般的です。
また、信託契約の内容を公正証書(こうせいしょうしょ)にするのが一般的です。公正証書にすれば公文書としての扱いになり、本人確認があるので信頼性に優れています。「偽造では」と後で争われることがなく、実効性があります。
また、原本を公証役場で保管するので紛失の心配がありません。参考までに、以下のような書類を作ります。
出典:国松偉公子事務所
公正証書化は必須ではないものの、確実な家族信託を実施するためにほとんどの人が利用します。このとき、司法書士へ依頼すれば契約書の作成だけでなく公正証書化についてもサポートしてくれます。司法書士が公証役場へ出向き、すべての手続きをしてくれるのです。
こうした契約書の作成や公正証書化の費用まで含めると、一般的な料金相場は10~15万円になります。コンサルティング費用とは別に契約書や公正証書化のお金が必要になると考えましょう。
公正証書化の実費料金(手数料)が発生する
また、公正証書として公証役場に認めてもらう場合、実費が必要になります。つまり司法書士へ支払う費用とは別に、公証役場に支払うお金が発生するようになります。
どれだけの料金が必要になるかというと、これについては信託契約の内容に変わってきます。ただ、目安として以下のように考えれば問題ありません。
- 信託財産が5,000万円以下:約3万円
- 信託財産が1億円以下:約5万
- 信託財産が3億円以下:約10万
- 信託財産が10億円以下:約25万
信託財産が増えれば、それに応じて公証役場に支払う金額が高額になります。そのため、公正証書を作成して認めてもらうとき、3~10万円の手数料が相場になると考えましょう。
土地・建物など不動産登記費用での報酬支払い
また、家族信託の内容に不動産を含めるケースはよくあります。こうした不動産信託を実施する場合、所有権移転登記をしなければいけません。
不動産信託をする場合、「委託者(依頼する人)=受益者(利益を受け取る人)」に設定するのが一般的です。ただ、受託者(財産管理をする人)を子供などに指定することで、代わりに財産を管理してもらいます。
これだと、「不動産を売ったとき」「賃貸マンションから賃料を得たとき」については受益者(利益を受け取る人)である親にお金が入ります。ただ、土地・建物を管理する人は子供などの受託者(財産管理をする人)に移ります。そのため不動産について、親から子供へ所有権を移転させるための登記をするのです。
こうした不動産登記は司法書士に依頼するのが基本であるため、家族信託を依頼した司法書士に対して、同時に不動産登記もお願いすることになります。
一般的な値段の相場としては、土地・建物(固定資産税の評価額5,000万円以下)が1つにつき、10万円ほどになると考えましょう。
もちろん土地・建物が増えたり、評価額が高かったりするとそれに応じて登記費用が増えることになります。不動産を受託者名義に変更するにはそれなりに費用が必要なため、不動産信託があるとそれに応じて報酬相場が高くなるのです。
不動産の所有権移転で登録免許税が必要
また不動産の登記をするとき、所有権移転に伴って税金を支払う必要があります。これを登録免許税といいます。不動産登記によって所有権が移るとき、全員が登録免許税を支払わなければいけません。
ただ家族信託の場合、受託者(財産管理をする人:子供)に土地・建物の所有権が移るとはいっても、受託者が不動産からの利益を得られるわけではありません。前述の通り、賃貸マンションから収益が発生しても受託者ではなく、受益者(利益を受け取る人;親)にお金が入ります。
受託者はあくまでも不動産を管理しているだけの立場になります。そのため、通常の不動産購入による登録免許税よりも税率が優遇されています。具体的には、固定資産税評価額の0.4%(土地は0.3%)となっています。
例えば、評価額2,000万円の建物であれば「2,000万円 × 0.4% = 8万円」が登録免許税になります。
通常だと、登録免許税は固定資産評価額の2%です。そのため、5分の1の税率に抑えられています。そこで、こうしたお金を税金として国に納めるようにしましょう。
・その他の料金発生もある
なお、ここまで述べたものが家族信託(民事信託)で必要な費用になります。ただ、場合によっては信託財産の把握に必要な料金が発生したり、収入印紙が必要だったりします。戸籍謄本などで、家族関係を調査することもあります。
これについては家族信託の内容によって異なりますが、5,000~10,000円ほど信託費用の値段が上昇することがあります。
費用を安くすることは可能なのか
ただ、いくら「家族信託活用のほうが成年後見人の利用よりも費用が少なくて済む」とはいっても、値段が高いことには変わりがありません。そうしたとき、安い料金で済ませることはできないのでしょうか。
これについて、真っ先に思い浮かべるのが「自分で作成する」ことです。ただ、絶対にやめたほうがいいです。無効な信託契約になりやすいからです。前述の通り、司法書士でさえ相続に慣れていないと家族信託の契約書をうまく作成できないほどです。
当然、素人が「自分で作って安く抑えよう」としても効力のない契約書が完成され、家族信託を思うように実施できないケースが多発します。
なお、司法書士への報酬を抑えることはできませんが、他で費用削減できる箇所があるとすれば、公正証書に関する部分になります。この部分を削れば、それだけ安い金額になります。
ただその場合、家族信託の契約書を絶対に紛失しないように注意しなければいけません。無くした場合、家族信託の契約を本当に結んだかどうか証明できず、意味のない事態に陥ってしまいます。
また公文書にするわけではないため、「本当に家族信託契約を委託者(依頼する人)と受託者(財産管理をする人)が結んだのか」について、委託者が死亡して相続が発生した後に争いになったとしても、本物かどうかの証明ができません。
こうした大きなデメリットがあるので、ほとんどの人が公正証書にするのです。ただ、どうしても値段を安く抑えたい場合は公正証書化の費用発生部分を削るようにしましょう。
専門家へ依頼する家族信託の料金相場を理解する
家族信託(民事信託)の手続は自分で行うものではありません。これが不動産信託となり、土地・建物まで関わるとさらに内容は複雑になります。
そのため、必ず司法書士などの専門家へ依頼する必要があります。専門家へコンサルティングや契約書の作成、公正証書化、不動産登記などあらゆる手続きを依頼するからこそ、スムーズに家族信託を実施できるようになるのです。
実際のところ、家族信託を利用するために発生する費用の値段は高いです。ただ、成年後見制度を利用するよりも圧倒的にお金を節約できるため、相続対策だけでなく認知症対策という意味でも重要になります。
また司法書士への費用を削るのは難しいため、料金を安くできたとしても公正証書化を削るくらいになります。ただ、家族信託を活用する場合は公正証書化を含めて実施するのをおすすめします。家族信託は何十年も契約が続くため、公文書にしておいたほうが都合がいいのです。
ここまでの料金相場を理解したうえで、事前の相続対策として家族信託を実施するようにしましょう。
生前対策や相続税申告の場面では、依頼する専門家が非常に重要になります。相続に特化し、さらには節税や不動産、株式などにも精通した専門家に依頼しないと相続税が非常に高額になるためです。
実際のところ、正しく相続対策を講じていないため多くの人が損をしています。
ただ、相続に大きな強みをもつ専門家を厳選したうえで相談すれば、通常よりも税金が1,000万円も違うのは普通です。また、当然ながら実務経験が多く知識のある専門家に依頼するほど、相続後の争いも少ないです。
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