不動産の家族信託(不動産信託)を利用する人は非常に多く、相続と不動産は切り離せない存在だといえます。ただ、不動産を保有するときは借金をすることもあります。そうした負債を抱えている場合、必ず借入金による問題が発生するようになります。

まず、借入金を得るためには不動産を担保に入れることになります。つまり抵当権がつくわけですが、そうした不動産でも家族信託できます。ただ、そのまま不動産信託を利用するとなると銀行側が拒否をするため、債務引受(借金を他の人が引き継ぐこと)など事前に対策をしなければいけません。

また、このときは「家族信託をしたとしても債務控除(相続税計算で借金の分を差し引くこと)ができるのか」も気になります。

不動産信託において、借入金である負債は非常に重要な要素となります。ここでは、「家族信託・民事信託で生じる借入金の問題をどう解決すればいいのか」について解説していきます。

ローンありで抵当権設定・担保設定があっても民事信託可能

自宅や投資用マンション・アパートを含めて不動産を購入するとき、よほどの資産家でない限りは銀行から融資を受け、借入金によって土地・建物を買うことになります。

このとき、銀行は購入した不動産に対して担保設定します。つまり、借入金を仮に返してもらえない場合、銀行は不動産を取り上げて競売にかける権利を有することになります。これを抵当権(担保権)といいます。

既に完済しているなら抵当権設定はないですが、多くの場合で自宅のローンやアパートローンなどが残ることになります。そうしたとき、担保付きの土地・建物について家族信託できるのか不安になるのです。

これについては前述の通り、たとえ抵当権設定があったとしても問題なく家族信託を利用することができます。

家族信託は「認知症に備えて事前に行う」「相続での土地・建物を誰が引き継ぐのか指定する」などで活用されます。銀行融資の借入金が残っていたとしても問題ないのです。このとき、ほとんどの不動産信託では以下のように設定します。

  • 委託者(依頼する人):親
  • 受託者(財産管理する人):子供
  • 受益者(利益を受け取る人):親

委託者(依頼する人)は不動産所有者である親なのは当然です。ただ、受託者(財産管理する人)として子供を設定することで、代わりに不動産を管理してもらいます。これにより、親が認知症を発症して判断能力がなくなっても不動産管理が可能になります。

しかしながら、受益者(利益を受け取る人)は親に設定しているため、不動産は親の所有物のままであり、土地・建物を売却したとしても受益者(利益を受け取る人)である親にお金が入ってきます。

こうして他の人に財産管理をお願いする家族信託ですが、負債が残っているので当然ながら必ずしもスムーズに不動産信託を活用できるとは限りません。そこで、何をしなければいけないのか事前に理解する必要があります。

不動産信託で抵当権は受託者に引き継がれない

自宅のローンや賃貸用アパートローンが残っていたとしても不動産信託を問題なく利用できます。ただ、このときは借入金の問題を解決しなければいけません。

まず、家族信託を活用するとき信託財産として指定できるものと指定できないものがあります。家族信託(民事信託)は幅広い信託が可能であり、例えば以下のようなものを他の人に管理してもらうことができます。

  • 現金
  • 不動産(土地・建物)
  • 有価証券(株式・債券など)
  • 動産(ペット、美術品など)
  • 知的財産権(特許権、著作権など)

ただ、借金については家族信託できません。マイナスの財産は家族信託の対象外となっているのです。

そのため抵当権設定のある不動産を家族信託する場合、土地・建物の管理権限は受託者(財産管理する人:子供)に移っているにも関わらず、借入金の名義は委託者(依頼する人:親)のままとなってしまいます。

家族信託と共に抵当権を受託者(財産管理する人)が引き継げるならいいですが、不動産信託ではそうしたことができないのです。

この状態で債務(借金)の支払いが滞ればどうでしょうか。本来であれば、銀行は「不動産所有者である親の家賃管理口座を凍結し、相殺させることでローン代金を回収する」ことが可能です。

ただ家族信託を実施していると、受託者(財産管理する人)である子供が財産管理することになります。このとき、信託口口座(信託財産を管理するための銀行口座)を活用するなど、家賃収入は受託者名義(子供名義)の預金に振り込まれることになります。

つまり完全に別名義となるので、銀行としては借金返済が滞ったときに瞬時の相殺ができません。別の名義人の預金口座を勝手に凍結するわけにはいかないのです。

このように抵当権まで受託者(財産管理する人)に引き継がれることがないため、銀行にとってはリスクが増えるようになってしまいます。確かに担保設定のある不動産であっても家族信託することは可能ですが、銀行が難色を示すために行えないことがあるのです。

債務引受で負債を引き継げば土地・建物の家族信託が可能

当然ですが銀行はリスクを嫌います。そのため、融資が残っていて担保設定されている土地・建物を家族信託するにしても、融資先の銀行から拒否されることが頻繁にあります。

そうしたとき、どうすればいいのでしょうか。抵当権設定のある土地・建物の不動産信託が可能とはいっても、銀行に拒否されるのであれば実際のところ家族信託を実施することができません。

確かに、家族信託では前述の通りマイナスの財産管理を依頼することはできません。ただ、債務(借金)を他の人に移転させることは可能です。これを債務引受といいます。文字通り、債務を引き受けるわけです。

そこで不動産信託を実施すると同時に受託者(財産管理する人)が債務引受をします。これにより、銀行としては受託者(財産管理する人)が債務返済を滞らせたとしても、問題なく家賃収入の入金口座(信託口口座)を資産凍結させることできます。

リスクを大幅に減らすことができるため、受託者が債務引受を承諾する場合だと銀行は抵当権付きの不動産の家族信託を承諾してくれます。このとき新規で契約する必要はありますが、こうした手続きを済ませることで不動産の家族信託がスムーズに進みます。

受託者が借金を背負うのは問題ない

なお、受託者(財産管理する人)にとってみると「不動産信託によって自分が負債を背負うことになるのか?」と考え、怖気づいてしまうケースが多いです。ただ、これについては実際のところ何も問題ありません。

債務が残っていて抵当権があるとはいえ委託者の子が受託者であれば、「不動産が将来発生する相続財産である」ことには変わりがありません。こうした自宅やマンション・アパートのローンについて、家族信託を実施していないと事態はより深刻になります。

例えば親が認知症を発症して判断能力が低下すると、あらゆる新規契約が無効になります。つまり自宅の売却はできません。また、賃貸マンション・アパートであれば新規入居者との契約や既存入居者の契約更新ができません。そうして、収益性が悪化して親の借金返済が滞るようになります。

相続では借金も相続人が引き継ぐことになるため、不動産が負の遺産にならないように管理しなければいけません。そのために家族信託が有効なのであり、受託者(財産管理する人)が債務引受して財産管理したほうが良い結果を生み出します。

自宅のローンであれば、売却によって借金を相殺することが可能です。マンション・アパートローンを返済するにしても、受託者(財産管理する人)が管理すれば不動産の収益を維持させることができ、問題なく銀行融資の返済が可能になります。

借金とはいっても、担保付き不動産の家族信託による負債を引き継ぐのは特に問題ないと考えましょう。

引き継ぐ借金や新規融資(信託内借入)は債務控除可能か

ただ、このように受託者(財産管理する人)が借金を引き継ぐとなると、気になるものとして債務控除があります。

死亡して相続が発生したとき、その時点の保有財産について相続税を課せられることになります。ただ、借金があればその分だけ相続税が減額されます。

例えば、1億円の不動産を保有していると1億円に対して相続税を課せられます。ただ、1億円の不動産を保有していても銀行融資による借入金が8,000万円ある場合、保有財産の評価額は以下のようになります。

  • 1億円(不動産の相続税評価額) - 8,000万円(借入金) = 2,000万円

これを債務控除と呼び、相続財産から借金の分だけ控除できると考えましょう。

ただ担保付きの不動産を家族信託に入れる場合、借入金の名義は委託者(依頼する人)ではなく、受託者(財産管理する人)に移るケースが多いです。借金の名義が親ではなく子供であるため、債務控除できないのではと考えてしまうのです。

同じことは賃貸マンション・アパートについて新規でローンを借り、リフォーム・リノベーションをするときにもいえます。家族信託を実施している場合、融資を受けるときは通常だと受託者名義でお金を借りることになります。家族信託として代理人が融資を受け、不動産信託された建物の修繕を行うため、これを信託内借入といいます。

信託内借入では、信託財産の中に借金が含まれるようになります。ただ、信託財産は委託者(依頼する人)とは切り離されて管理されるため、実際に委託者が死亡して相続が発生したとき、債務控除できるのか心配になるのです。

これについては、結論をいえば問題なく債務控除できるようになっています。つまり、受託者(財産管理する人)の名義で負債(借金)が残っていたとしても、相続財産から借金の分だけ差し引くことができるようになっているのです。

銀行融資の債務は受益者に帰属する

それでは、「受託者(財産管理する人)が債務引受した」「受託者(財産管理する人)の名義で融資を受け、信託財産のリフォームをした」のように、受託者の名義で借金をしたにも関わらず、なぜ債務控除が可能なのでしょうか。

家族信託の場合、受託者(財産管理する人)はあくまでも財産管理をするだけです。受託者としてある程度の報酬をもらうように設定することはできるものの、無報酬で不動産の管理をするのも普通です。親族内で家族信託をするのが基本であり、無報酬でも成り立つのです。

それでは、どの人が不動産からの利益を受け取れるかというと、既に説明した通り受益者です。通常は「委託者(依頼する人)=受益者(利益を受け取る人)」に信託契約を設定するため、受託者(財産管理する人)である子供に不動産を管理させながら、受益者(利益を受け取る人)である親が利益を得るようになります。

このとき家族信託の相続では「受益者(利益を受け取る人)が誰か」が相続税を課税する基準になります。信託財産というのは、受託者(財産管理する人)ではなく受益者(利益を受け取る人)にすべて帰属するのです。

同じように信託財産の中に債務が残っていたとき、このときの債務は受益者(利益を受け取る人)のものであると考えるのが基本です。

実際、不動産信託を実施するときは登記を行い、管理者を受託者(財産管理する人)に移します。しかし、不動産の相続時は受益者(利益を受け取る人)を基準にして相続税を計算します。受託者の管理物ではあっても、相続税の計算はあくまでも受益者(利益を受け取る人)が基準になるのです。

同じように、借金の管理者が受託者(財産管理する人)であったとしても、その借金は受益者(利益を受け取る人)に帰属します。そのため委託者&受益者が死亡し、相続が発生したとしても債務控除が可能になるのです。

信託財産の債務控除が無条件で可能なわけではない

なお、このとき受託者(財産管理する人)が融資を受けたお金が債務控除の対象になるかどうかについて、確実なわけではないのは理解しましょう。

まず債務(借金)を弁済する場合に、すべての信託財産を活用したとしても借金を弁済できないことがあります。信託財産である土地・建物を売却したとしても、銀行からの借入金をすべて返済できないケースは頻繁に発生するのです。

そうしたとき、信託財産を用いても借入金の返済が困難な場合は「確実と認められる債務」に該当せず、債務控除できないリスクがあります。債務控除できる条件は法律上、「確実と認められる債務」であり、この要件を満たさなくなる危険性があるのです。

つまり、土地・建物の評価額や残っているローン残高によっては債務控除できなくなる恐れがあります。

この事態を避けるため、事前に専門家と相談したうえで「家族信託について債務控除できる契約内容に設定して、必ず信託財産の債務控除が可能になる」ように調整しなければいけません。

抵当権付きの不動産を家族信託したり、不動産信託後に融資を受けたりした場合、債務控除できるとはいっても正しく行わなければいけないことは理解しましょう。

民事信託で不動産の借入金がある場合は注意するべき

家族信託(民事信託)を実施するとき、お金の管理を依頼するだけなら非常に簡単です。ただ、家族信託では不動産の管理を依頼することが多く、多くのケースで土地・建物とセットで不動産信託を利用します。

ただ、このとき困るのが銀行からの借入金です。ほとんどの場合、銀行融資を受けることで不動産を購入するからです。このときのローンが残っている場合、担保権設定のない不動産とは違って少し面倒な作業をしなければいけません。

ローンの融資先銀行がそのまま不動産信託を受け入れてくれるならいいですが、銀行にとってリスクがあるため、受託者(財産管理する人)と新規契約して借金を移動させるように手続きを行い、受託者が債務引受するのです。

ただ、債務引受した借金や家族信託後に融資を受けた負債については、相続発生時に債務控除できます。受託者(財産管理する人)の借金ではないからです。ただ、無条件で債務控除できるわけではないことに注意しましょう。

これらのリスクや気を付けるべき点を理解したうえで不動産信託を実施しましょう。家族信託(民事信託)は非常に有用性が高いため、正しく活用すれば親族内で土地・建物を守れるようになります。

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