生命保険を相続対策で活用するとき、通常は一括でお金を受け取ることで遺族へ多額の死亡保険金が支給されるように仕向けます。

ただ、生命保険でお金の受け取りをするときは一括で支払われるタイプではなく、個人年金保険として年金払い(分割払い)による支払いを受けることもあります。そうしたタイプの生命保険に加入していた場合、どのように考えて相続すればいいのでしょうか。

一括受取タイプであれば非常に単純であるものの、個人年金だと税金の仕組みが少し複雑になります。相続税と所得税の支払いが生じるからです。また、いまでは是正されているものの、かつては二重課税を生じていた時期もありました。

そこで、どのように考えて年金型の生命保険を相続すればいいのか解説していきます。

個人年金保険は未払い分も含めて相続税支払いが必要

生命保険の受け取りでは、通常だと一括払いになります。ただ、生命保険によっては年金払いを選択することもできます。

ただこのとき支払われる年金(死亡保険金)については税金を課せられます。生命保険金を一括で受け取る場合、相続税を課せられるのは広く知られていますが、一括に限らず個人年金保険として分割払いでも課税されます。

どのようになるかというと、個人年金保険として受け取りをする場合、未払いの分まで含めて相続税を支払わなければいけません。

例えば20年に分けて分割払いされる年金型保険を相続するとします。このとき、実際には20年分を受け取ってはいないものの、相続税算出のときについては「20年分のお金を受け取ったと仮定して、相続税を支払う」ようになると考えましょう。

一括で支払われる死亡保険金とは異なり、年金型では高額なお金が入っていない状況でも相続税の支払い義務を生じます。そのため、年金受取の総額が多いと相続税の支払いに苦労するのが年金型の生命保険の相続です。

ただ年金型の場合、少しずつお金を受け取ることになるので一気に使い込みをすることがなく、「今後の生活をどのように組み立てればいいのか、対応しやすい」というメリットがあります。

解約返戻金相当額など、年金受給権に相続税を支払う

それでは、このときどのように考えて相続税を支払えばいいのでしょうか。これについて、年金受給権(生命保険の保険金を受け取れる権利)に対して相続税を課せられると考えるようにしましょう。

年金受給権がいくらになるのかについては、いくつか計算方法があります。ただ、年金受給権の計算方法を理解する意味はないので詳細は省きますが、ザックリと「遺族に残された生命保険の解約返戻金がどれくらいの額になっているのか」が年金受給権の額と考えて問題ありません。

例えば、以下は年金受取型の生命保険(ドル建て)での解約返戻金になります。

積み立てておいたお金が年金原資であり、書類には解約返戻金(仮に解約したときに一括で支払われるお金)が記されています。この解約返戻金が年金受給権の額に当たり、解約返戻金相当額に対して相続税を課せられるようになります。

一括で支払われる生命保険であれば、死亡保険金として明確な相続額が確定しています。ただ、年金型だと支払い年数によって受け取る金額の総額は異なりますし、一概に相続額を決めることはできません。そのため、解約返戻金などを考慮して相続税を決めるのです。

年金型の生命保険でも非課税枠がある

なお、死亡保険金として受け取る通常の生命保険の場合、相続人一人につき500万円の非課税枠が認められています。例えば、法定相続人が配偶者と子供2人の場合は「3人 × 500万円 = 1,500万円」が控除されます。

そうしたとき、個人年金保険だと一括で受け取るわけではありません。この場合、非課税枠を利用することはできるのでしょうか。

これについては、年金型の生命保険を相続する場面であっても問題なく非課税枠を利用することができます。先ほどのように、解約返戻金に相当する部分に相続税を課税されるわけですが、その部分に関して非課税枠を適用させることができるのです。

一括での受取でも、年金型でも問題なく生命保険の利用によって節税できると考えましょう。

年金保険でたくさんもらえたお金は雑所得で所得税となる

ただ、個人年金保険として分割払いを選択する場合、年金受給権(解約返戻金の相当額)よりも受け取るお金の総額が多くなるのが基本です。

生命保険というのは資産運用でも活用されます。つまり、長くお金を据え置くほど資産が増えるようになるのです。そうしたとき、一括でお金を受け取るのではなく分割での受け取りをする場合、それだけ生命保険会社に長くお金を据え置いておくことになります。

その結果、解約返戻金よりも多くのお金をもらえるのですが、このとき「年金保険によって多くお金がもらえた部分」については雑所得となり、所得税・住民税が課せられるのです。お金を儲けたら必ず課税されるため、これについてはそういうものだと考えるようにしましょう。

例えば年金受給権が3,000万円であれば、3,000万円分の生命保険について相続税を支払うことになります。ただ、実際には「330万円(1年の年金額) × 10年 = 3,300万円」のお金を受け取っている場合、差額の300万円に所得税・住民税を課せられることになります。

生命保険会社は資産運用で儲けているわけですが、このときの儲けは保険契約者(あなた)に還元されます。そのために保険料の支払い額よりもお金が増えていくわけですが、増えた分のお金は雑所得になって所得税・住民税が必要になるのです。

雑所得は累進課税での税金がかかる

なお、このとき年金保険によってお金が増えた場合、雑所得に課せられる税金は累進課税になります。つまり儲けが大きいほど、所得税が高くなるように設定されています。

年金保険を受け取るのは、指定された子供や孫です。これら子供や孫は多くのケースで社会で働いているわけですが、給料として収入があります。そのため所得税率はそれなりに高くなっており、年金保険で受け取る雑所得についても給与所得と同様に総合課税である以上、ある程度の税金を支払うようになると考えましょう。

例えば所得税率23%の人であれば、住民税10%を加えて、税率33%になります。

なお、このときは年数が経過するほど生命保険による資産運用額が大きくなります。そのため、たとえ支給額が毎月固定であったとしても、年数が経過するほど支払う税金が多くなるようになります。

いずれにしても年金保険については、解約返戻金相当額については既に税金を支払っているので関係ないものの、それ以外の部分(保険による資産運用で増えたお金)について累進課税での所得税・住民税を支払うようになると考えましょう。

参考までに、生命保険会社での運用益は年間0.5~1%ほどになります。そのため、税金を支払うとはいってもそこまで高額な課税が発生するわけではありません。

所得税の二重課税は存在しない

なお、年金保険を利用するときかつては二重課税が存在していました。いまでは解消していますが、非常に不利な税制となっていたのです。

年金保険にて相続する場合、前述の通り解約返戻金相当額で税額を計算し、税金を納めることになります。ただ、以前は生命保険会社から受け取る年金保険のお金について、毎年支払われる年金についても雑所得として課税されていました。

例えば2,000万円の価値のある年金保険を相続するとき、ザックリ考えると「2,000万円に対する相続税を支払い、年金として分割して2,000万円を受け取るときについても所得税・住民税を支払う」という状況でした。

誰がどう見ても二重課税であり、違法な状態でしたが、以前はこれが普通でした。ただ裁判があり、最高裁まで争った結果、原告が勝訴して「年金保険の相続について、相続税と所得税の二重課税は違法」であることが確定しました。

いまでは二重課税の問題は解消しているため、生命保険会社から死亡保険金が支払われるとき、一括ではなく年金での受け取りを希望しても問題ありません。もちろん運用益の部分については課税されますが、昔のような高額な雑所得が発生することはないのです。

年金型生命保険の相続方法を理解する

相続のときに生命保険を利用するのは基本であり、これは単純に死亡保険金として受け取ることで大幅な節税が可能になるからです。

このとき、最も分かりやすいのは死亡保険金を一括で受け取る方法です。ただ、年金という形で受け取ることも可能です。この場合も同様に死亡保険金に対する節税が可能であり、無駄な税金を抑えることができます。

相続税については年金受給権として解約返戻金相当額に課せられることになり、生命保険での運用益については雑所得の対象となります。一括受取よりも年金として受け取るほうが多くのお金を受け取れるため、その部分は雑所得として相続税とは別に納税が必要になると考えましょう。

個人年金は生命保険を相続したときでも作れますが、事前に課税関係を含めて仕組みを理解するようにしましょう。総額としては一括受取よりも高額なお金を手にできるため、相続時は年金受取を選択しても問題ありません。

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