相続税は非常に高額になるため、事前の相続対策を検討するのは必須です。そうしたとき、生前贈与を利用すると非常に大きな節税効果を生み出します。
ただ、相続では節税だけに着目してはいけません。特に相続人が複数いる場合、遺産分割についても考慮する必要があるのです。こうした遺産分割で効果を発揮するのが遺言です。
ただ生前贈与と「遺言による相続」を比較したとき、どちらが優れているのでしょうか。結論をいえば、どちらもメリットとデメリットがあります。そのため片方だけではなく、両方を併用するのが最も効果的だといえます。
また実際の相続対策では、「先に遺言書を作成したうえで、後に生前贈与を実行に移していく」のが正しいやり方です。そこで生前贈与と「遺言での相続」を比較したうえで、どのように考えて相続対策を実践すればいいのかを解説していきます。
もくじ
現金は生前贈与が圧倒的に得
生前贈与と「遺言での相続」でどちらが優れるかというと、前述の通り両者を一概に比べることはできません。ただ特定の状況については、どちらが効果的なのかを明示できます。
そうした中でも、現金については相続税ではなく生前贈与にて財産を渡すほうが効果的です。そのほうが圧倒的に税金(相続税)を少なくできるからです。
生前贈与では毎年110万円の非課税枠があります。そのため、110万円以下の贈与を繰り返す場合は贈与税ゼロにてお金を渡せるようになっています。こうした手法を暦年贈与といいます。
また、110万円の枠を超えても問題ありません。例えば毎年300万円の生前贈与をする場合、贈与税は19万円のため、贈与税率は約6.3%です。そのため相続税に比較すると、非常に低い税率にて財産を渡せるようになっています。
贈与税については、一つの年に一括贈与すると非常に高額になります。ただ、毎年少しずつの生前贈与であれば、非常に低い税率にて現金を渡すことができると考えましょう。
なお現金に限らず、これは株などの有価証券についても同様です。上場株式や自社株について、少しずつ生前贈与を繰り返すことで、贈与税なしまたは低い税率で財産の移動が可能になっています。
不動産は遺言書を作成して相続させる
ただ不動産(土地・建物)については生前贈与が非常に微妙になっています。不動産を贈与する場合、そのつどの登記が必須になります。お金だと誰の所有物が記されていませんが、不動産については「誰の所有物であるのか」を法律上でも明記するようになっています。
そのため、不動産を贈与する場合は司法書士などの専門家へ支払う登記費用が発生します。これについては、毎回10万円などの費用になります。
しかも不動産の生前贈与だと、相続に比べて以下のようなデメリットが発生します。
- 不動産取得税、登録免許税の免除や減額がない
- 小規模宅地等の特例を利用できない
相続の場合、不動産取得税がゼロになります。また登録免許税が通常時の5分の1と、大幅に減額されます。これらの税金は非常に高額であるため、生前贈与ではなく相続を選べば大幅に安くなります。
また土地については、相続で引き継ぐ場合であれば「一緒に住んでいる配偶者や子供」「自宅を保有していない子供」などであれば、相続時の土地価格について80%が減額されます。これを小規模宅地等の特例といいます。
ただ生前贈与の場合、こうした特例がありません。相続だと不動産に関するいろんな特例を利用できるものの、生前贈与では利用できないと考えるようにしましょう。
こうした理由があるため、土地や建物の相続対策で生前贈与を検討するのは不適だといえます。実施してもいいですが、無駄に税金や手数料が高くなってしまいます。そのため不動産については、生前贈与ではなく相続が最適だといえます。
遺産分割協議の相続の争いを贈与と遺言で軽減する
そうしたとき、相続対策で非常に重要となるポイントに遺産分割協議があります。財産の多い少ないに関係なく、遺産分割で揉めることで親族同士の争いに発展するようになるからです。
こうした遺産分割での争いを避ける方法が生前贈与や遺言です。遺留分(相続人が引き継げる最低限の財産)について考慮するのは必須であるものの、遺留分さえ守っていれば生前贈与と遺言の有効活用により、遺産分割協議での相続争いを避けられるようになるのです。
ただ生前贈与と遺言はこれまで説明した通り、性質がまったく異なるものになります。現金だけを保有する場合であれば特に考えることなく生前贈与を活用すればいいですが、不動産を保有する場合は遺言を併用しながら現金・株式の贈与を行うようにしましょう。
このとき注意するべきは順番です。生前贈与と遺言書の作成を同時に行うのではなく、先に遺言書の作成をすることを考えるといいです。
生前対策で遺言を作り、生前贈与する
なぜ、生前対策を実践するにしても優先順位が存在するのでしょうか。これは、不動産が関わってくると財産の分け方が非常に面倒になるからです。
土地や建物について、最もダメな状態は共有名義です。一つの土地や建物であるものの、複数の人物が名義人として存在している状態だと、不動産の売買や土地活用のときを含め、全員の印鑑が必要になってきます。
一人の意思だけで手続きを行えないため、共有名義化した時点で不動産が負の遺産になりやすいです。誰も不動産に手を付けられないのに、無駄に毎年の固定資産税だけ払わなければいけない状態になってしまいます。
そこで、相続での争いを避けるために遺言を利用し、誰に不動産を相続させるのか生前に決めておくようにしましょう。賃貸用マンションを保有していなくても、持家を所有している人は非常に多いため、そうした家を誰が相続するのか遺言書に明記しておくのです。
土地や建物の固定資産税については、以下のような書類が毎年送られてくるはずです。
ここから、土地や建物の評価額が明確に分かります。そのため、兄弟のうち一方だけに不動産を残すのであれば、もう一方については現金や生命保険としてお金を残すように調整しましょう。これにより、平等に財産を分割できるようになります。
生前対策で先に生前贈与をしていると微妙
一方で先に生前贈与を実践している場合であればどうでしょうか。例えば、以下のような状況だとします。
- 現金:5,000万円
- 不動産:4,000万円
毎年の非課税枠は前述の通り110万円です。そこで子供2人に対して、毎年100万円を20年に渡って生前贈与すれば、贈与額の合計は以下のようになります。
- 毎年100万円 × 20年 × 2人 = 4,000万円
これだけの高額なお金を無税にて渡すことができます。ただ、子供2人はそれぞれ2,000万円ずつお金を受け取れるものの、実際に親が死亡して相続が発生したときは以下の資産を遺産分割しなければいけません。
- 現金:1,000万円(現金4,000万円を贈与済み)
- 不動産:4,000万円
これを平等に分けるとなると非常に難しいです。不動産について、土地が大きいのであれば分割できるかもしれませんが、そうした土地ばかりではありません。建物があって分割するのが難しかったり、下手に分割すると使いにくい不動産になってしまったりします。
ただ共有名義にすると、前述の通り不動産が負の遺産へと変貌してしまいます。そのため生前贈与を続けた後に遺言書を作成したり、実際に相続が発生したりする場合、平等な遺産分割が難しくなって争いへと発展するようになります。
先に遺言書を作成し、相続時に不動産の取り扱いをどうするのか決めておくべきなのには、こうした理由があるからなのです。
専門家と相談してからの生前対策が有効
多くの場合、自己流で相続への生前対策を実行すると「うまく遺産分割できない」「むしろ損する内容になっている」などの不備がたくさん発生するようになります。そのため、「現時点で何も相続対策を検討していない人」のほうが効果的な生前対策を行えるケースは多いです。
もちろん相続発生までに年数がある場合、自己流にてダメな相続対策をしている場合であっても軌道修正することは可能です。ただいずれにしても、相続や生前対策に詳しい専門家のもとで指導してもらうのが、最も優れたやり方だといえます。
当然ながら、このときは誰に相談するのかが非常に重要になります。相続知識に精通した専門家でなければ、優れた生前対策は実践できません。
生前贈与も「遺言書の作成」による相続も、両方とも相続対策として有効なツールになります。特に不動産を保有する場合、両者を利用することが大きな節税につながり、遺産分割もスムーズになります。ただ、その詳細なやり方は非常に重要だといえます。
生前贈与と遺言を比較し、両方を利用する
生前対策として優れたものに生前贈与と遺言があります。そうしたとき、生前贈与と遺言での相続ではどちらが得なのか考えてしまうケースがあります。
これについて、両者を比較すればそれぞれでメリット・デメリットがあります。そのため、どちらが得なのかを考えることに意味はありません。ただ、以下のように考えるようにしましょう。
- 生前贈与:現金の相続対策に優れる
- 遺言での相続:不動産の相続対策に優れる
もちろん、遺言で現金を指定することは可能です。ただ現金だと、生前贈与を利用すれば非常に優れた相続税対策が可能になります。しかし不動産は生前贈与に向いていないため、遺言書の効力を利用することを考えるのが適切です。
両者を比較した場合、このような違いがあります。それぞれの特徴を理解したうえで、生前贈与と「遺言による相続」の両方を利用して、専門家と相談しながら生前対策を進めるようにしましょう。
生前対策や相続税申告の場面では、依頼する専門家が非常に重要になります。相続に特化し、さらには節税や不動産、株式などにも精通した専門家に依頼しないと相続税が非常に高額になるためです。
実際のところ、正しく相続対策を講じていないため多くの人が損をしています。
ただ、相続に大きな強みをもつ専門家を厳選したうえで相談すれば、通常よりも税金が1,000万円も違うのは普通です。また、当然ながら実務経験が多く知識のある専門家に依頼するほど、相続後の争いも少ないです。
そこで、当サイトでは相続に特化した専門家を紹介しています。生前対策や相続税申告を含め、節税によって多額のお金を手元に残しながら遺産争いを回避できるようになります。