有価証券(株式)の家族信託を活用するのは広く行われています。中小企業の株式会社であれば、家族信託(民事信託)を行うからこそスムーズな事業承継が可能になるのです。ただ、そうした非上場株式ではなく、上場株式を保有財産として持っている人もたくさんいます。

いわゆる株式投資によって資産運用するわけですが、こうした上場株式あれば誰でも保有している可能性があります。

そうしたとき、上場株式や投資信託について家族信託を設定することはできるのでしょうか。これについては、理論上は可能です。

しかし理論上はできたとしても、実際に行えるかどうかは話が異なります。ここでは、「株式投資の運用を家族信託で行う考え方」について解説していきます。

理論的には株式投資での家族信託が可能

まず、上場株式について自ら株を購入したり、投資信託で資産運用したりすることについて、家族信託を活用することは理論的に可能です。

家族信託(民事信託)を利用するとき、信託できる財産が決められています。これには金銭や不動産などがあるものの、株式など有価証券についても信託財産に設定することが可能です。実際、中小企業の非上場株式では家族信託(自社株信託)が広く実施されています。

有価証券について家族信託が可能であるため、当然ながら上場株式についても民事信託として他の人に株式の管理を依頼することができます。

認知症になって判断能力が低下すると、自ら株式の売買はできなくなります。ただ、事前に株式投資の運用に関する家族信託を実施しておけば、子供など他の親族が自由に上場株式の売買を代行できるようになります。

証券会社のほとんどは信託口口座に対応していない

しかし、「理論上できる」のと「実際にできる」のは話が異なります。証券会社が家族信託に対応していなければいけないからです。

例えば実際に家族信託を実施する場合、本人名義の口座とは異なる銀行口座を開設します。これを信託口(しんたくぐち)口座といいます。受託者(財産管理する人)の名義で銀行口座を開設し、信託口口座で預金管理していくのです。

これと同じように、上場株式の売買や投資信託をするときについても、本人名義とは別に株式の口座(信託口口座)を開設する必要があります。家族信託を行うとはいっても、本人名義の預金や株式口座を含めて自由に操作できるわけではないのです。

そうしたとき、証券会社で株式の信託口口座の開設に対応している会社はほとんどありません。信託口口座を開設できない以上、法律的には可能であっても実際には活用できないのです。

もちろん、家族信託に対応している証券会社がゼロなわけではありません。数は少ないながらも、そうした信託口口座に対応した証券会社は存在します。

ただ、信託口口座に対応している証券会社であったとしても「証券会社の信託口口座を作成するために新規で信託契約を結ばなければいけない」「証券会社が指定する弁護士に依頼する必要がある」など、非常に制約が大きくなるのが一般的です。

もちろん、弁護士費用や信託契約の作成費用はあなた負担です。これだけでも、30万円以上は軽く消えることになります。

そのため、信託口口座に対応している証券会社が存在するとはいっても、実際のところ非常にやりにくくなっています。

ネット証券会社以外を利用しての家族信託は価値がない

さらにいうと、そもそも上場株式を購入するとき、リアル店舗を保有している証券会社を利用すること自体に意味がありません。そうした会社は非常に手数料が高く、ほぼ儲からないようになっているからです。

例えば証券会社ではないですが、私は以前に銀行で投資信託をしたことがあります。私の知り合いに銀行員がいたため、本当は入りたくないけど付き合いで加入したわけです。ただ、投資信託の手数料が「年間で投資信託総額の3%」と異常に高く、どう考えても損をする内容だったわけです。

手数料を考えると、銀行を含めリアル店舗をもつ証券会社で株式を購入する意味はゼロだといえます。

実際のところ私も株式投資をしていいますが、ネット証券会社を活用しています。今の時代、手数料が圧倒的に安いネット証券以外、利用する価値はありません。参考までに、以下のように私はネット証券を活用して資産を着実に増やしています。

ただ残念ながら、ネット証券会社で信託口口座に対応している会社は存在しません。つまり、家族信託はできません。

  • 信託口口座に対応している会社が少ない
  • 利用できても制約が多く、利便性が悪い
  • ネット証券会社が信託口口座に対応していない

こうした事実を考えると、株式投資による資産運用を家族信託で実施するのは現実的に意味がないと考えましょう。実施してもいいですが、無駄な出費ばかり増えて資産を減らしてしまうことが目に見えています。

上場株式の投資については、最初から家族信託を実施するのは考えないほうがいいです。

本人名義のパスワードを伝えるのが最も現実的

それでは、どうやっても家族信託が無理なのかというと、必ずしもそういうわけではありません。これについては、「家族信託などの面倒なことは考えず、本人名義でネット証券の口座を開設し、パスワードなどを伝えて実際には子供が管理する」ようにすればいいです。

もちろん、本当はそういうことをしてはいけません。本人だけがパスワードを知っている状態が正しいです。

ただ実際のところ、高齢の親のために「ATMのパスワードを聞き出し、代わりにお金を下ろしてあげる」などは普通です。これと同じように、本人名義のネット証券口座を開設するものの、実際には子供などが管理するというわけです。

ネット証券の場合、証券会社の営業マンと対面で話をすることは確実になく、以下のようにインターネット上でログインIDやパスワードを入力し、実際にログインするだけとなります。

そのためパスワードさえ知っていれば、特に家族信託の契約を結ばなかったとしても、子供など他の人が本人の代わりになって資産運用することができます。

有価証券は仮想的な家族信託が理想

なぜ家族信託が必要になるかというと、何も対応しない場合に新規の契約や解約ができなくなるからです。例えば不動産の登記をするとき、司法書士などの専門家が本人の意思を確認する必要があります。このとき、認知症を発症しているなど判断能力が低下し、本人の意思確認ができなければ不動産の売却や契約ができません。

他にも、生命保険の満期保険金を受け取りたいにしても、必ず本人確認をされることになります。電話や対面などによって本人確認されることで、ようやくお金を受け取ることができるのです。

そうしたとき、家族信託を締結していれば本人の代わりとして受託者(財産管理する人)が契約を代行できるようになります。

ただ、ネット証券であれば前述の通り対面で何か確認されることはありません。すべての取引がネット上だけで完結します。何か投資信託の商品を購入するにしても、リアル店舗を有する証券会社のように人と会うことがないのです。

ネット証券なら、誰かログインしたとしても自由に株の売買が可能になります。

また、本人の口座であることには変わらないため、子供などの代理人が株式で資産運用することで、お金が増えたら本人(親)のお金が増えることになります。つまり、実質的に家族信託とまったく同じ状況の実現が可能になります。

こうした実情があるため、仮に「あらゆるネット証券の会社で信託口口座を作成でき、制約も多くない」という状態であったとしても、そもそも証券会社を活用して有価証券の家族信託をすること自体が意味ないのです。ネット証券会社を利用し、親から子供へパスワードを教えればいいだけだからです。

株式の資産運用に民事信託は不要

上場株式など、有価証券を保有している人はたくさんいます。そうしたとき株式の信託を考える人は多いですが、有価証券について家族信託(民事信託)を利用するのは微妙だといえます。

まず、信託口口座に対応していない証券会社ばかりです。しかも、ほとんどで制約が厳しく、何十万円もの初期投資が必要になり、しかも無駄に手数料が高いです。

ただ、実際のところネット証券を利用して本人(親)に口座開設してもらい、パスワードを教えてもらって子供などの代理人が資産運用すれば問題ありません。これであれば家族信託を利用しなくても、実質的に家族信託と同じ効果を生み出せるようになります。

株式投資での資産運用について、家族信託(民事信託)の利用を考えているのであれば、いますぐやめるようにしましょう。そうではなく、ネット証券会社を活用したうえで「財産管理を依頼する人(子供など)にパスワードを教える」だけで問題ありません。

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