家族信託(民事信託)を利用するとき、信託の対象となる不動産は宅地とは限りません。農地の信託をしたいと考えることもあります。

広く不動産信託が実施されていることから、農地についても問題なく家族信託によって他の人に管理してもらえると考える人が多いです。ただ農地法による制限があるため、家族信託を活用するにしても微妙なケースがよくあります。

そうしたとき、農地信託を実施するにはどのようなポイントに注意すればいいのでしょうか。また、どのような制限があるのでしょうか。

ここでは、「農業用地の家族信託を活用するとき、事前に考えなければいけないポイント」について解説していきます。

農地は自由に所有権移転できない

一般的に不動産(土地・建物)の家族信託を利用する場合、自宅や賃貸マンションに対して信託契約を締結します。ただ、不動産はこうした宅地などに限らず、農業用地も信託対象として存在します。こうした農地を信託する場合、ハードルが高くなるのです。

農地は農地法によって守られており、好きなように売買や贈与によって所有権移転できないようになっています。農地というのは、農地以外の利用が制限されていて非常に不便な不動産なのです。

農地かどうかについては、それぞれの市町村にある農業委員会が管理しています。農業委員会が農地と認めている土地については、「農地」と判定するようになります。このときは農地台帳に掲載されるようになり、「農地台帳にある土地=農地」となります。

農地かどうかについてはインターネット上からも簡単に調べることができます。例えば、以下のようになります。

こうして、視覚的にも「どこが農地でどこが農地でないのか」を判別できるようになっているのです。また、これら農地に分類されている土地は所有権移転に制限をかけられることになります。

家族信託で農地の指定は無効になりやすい

そのため、農地に対して家族信託を利用しても問題ありませんが、実際のところ無効になりやすいです。これは、家族信託・民事信託を利用しても「農業委員会の許可がなければいけない」からです。

通常の住宅や賃貸マンションなどであると、家族信託による契約を締結すればその瞬間に発動させることが可能です。特に制限があるわけではありません。

ただ、農地については農地法による制限があるため、家族信託で農地を信託対象として指定したとしても、農業委員会の許可がなければ信託契約が無効になります。つまり、農地の部分だけ家族信託をうまく利用できない状態になってしまうのです。

・農業従事者でないと受託者になれない

それでは、「農業委員会の許可を取ればいいのでは?」と思うかもしれませんが、簡単ではありません。農地の家族信託・民事信託を実施する場合、受託者(財産管理する人)が農業従事者である必要があります。

農業従事者については、以下のすべての要件を満たさなければいけません。

  • 農業に年間150日以上、従事している
  • 50アール以上(5,000m2以上)の農地を保有している
  • 農地が住宅から近い

これらの条件をクリアすることにより、ようやく農業従事者になることができます。そのため専業農家ならいいですが、サラリーマン勤めしている息子などに受託者(財産管理する人)として農地管理してもらうのは不可能になります。

受託者(財産管理する人)への所有権移転が難しいため、農地信託の利用があまり活発ではないのです。

農地というのは、自ら耕作したり他の人に貸して代わりに耕してもらったりするのが基本になります。そのため、家族信託という概念が適用されにくいといえます。

農地の家族信託需要は多い

しかし、実際のところ農地に関する家族信託の需要は非常に多いです。農地の所有者は高齢者が多く、農業従事者についても当然ながら高齢者がほとんどです。

そうしたとき、認知症を発症して判断能力が低下すると、資産が凍結されますし農地の管理者がいなくなります。そうして、草が生えたい放題の荒れ地へと変貌するようになります。そうなると農地の売却ができないだけでなく、将来土地を購入したいと考える人すらいなくなります。

土地活用なども当然ながらできないため、何も事前対策をしていないと不都合なのです。

それでは、どのようなときに農地信託が有効なのでしょうか。これについては、親族が週末などに農業をする場合は特に何も対策をする必要はありません。たとえ資産が凍結されても、田んぼや畑を好きに耕すのは何も問題ないからです。

ただ、将来は農地を開発したいと考えているケースもあります。または、農地の売却をしたいという人もいます。そうしたとき、事前に農地信託を検討する意義が大きいです。

将来、農地転用をするときは家族信託

農業用地について、農地転用によって宅地にしたり賃貸マンションを建てたりすることがあります。または、駐車場にしたり高齢者向け住宅建設用地として活用したりすることがあるかもしれません。

そうしたとき、いますぐ農地転用する場合であれば問題ありませんが、「本人(親)が働けなくなって本格的に農業を引退した段階で開発したい」などのように考える場合、家族信託をしておくべきだといえます。

本人の引退とはいっても、脳梗塞を発症して急に判断能力がなくなるかもしれません。そうなると農地は本人が死亡するまで凍結されるので農地転用はできません。そこで家族信託を利用していれば、たとえ本人が認知症を発症したとしても問題なく農地転用の計画を進められるようになります。

このときは宅地開発などをしていきますが、以下のように田んぼや畑の中に住宅があるのは普通なので、これと同じように農地転用していくのです。

当然、このときは農業委員会の許可を得たうえで開発していきます。農地法による縛りがあるため、これを抜け出す必要があるのです。

・地目変更を事前に行う

ただ、前述の通り農地をそのまま家族信託(民事信託)しても無効になります。そのため、この場合は家族信託を行う前に地目変更をしておきます。つまり、田んぼや畑として活用している農地について、別の目的で活用する土地に地目変更しておくのです。

もちろん、保有している農地が多い場合はすべてについて地目変更することはできません。全部の土地について、別の目的で利用するのは明らかに不自然からです。

ただ、保有する一部の土地について事前に「宅地にする」などの理由で、生前に地目変更するのは問題ありません。許可が下りるかどうかは各地の農業委員会の判断にもよりますが、いずれにしても事前の地目変更によって農地法の制限を排除できるようになります。

農地信託による農地売却はできない

それでは、農地の売却についてはどうなのでしょうか。将来、他の人に農地を売却したいと考えることもあります。

ただ、これについて農地信託ではできないと考えましょう。もちろん家族が農業従事者なのであれば、その人を受託者(財産管理する人)と指定することで農地の売却ができます。ただ、他に農業従事者がいない場合は農地信託をするときに農業委員会の許可が下りず、家族信託が無効のままとなります。

許可が下りない以上、家族信託を利用したとしても好きに農地売却をすることはできません。

それでは、実際に本人が認知症を発症してしまい、農業を続ける人がいなくなった場合はどうすればいいのでしょうか。これについては、他の人へ無償でもいいので貸すことで耕してもらうしかありません。自由に売れない以上、相続によって所有権移転が起こるまで待つしかないのです。

農地は負の遺産になりやすいですが、これは農地法によって自由に売れなかったり、家族信託が無効になったりするからなのです。

農地を手放す場合は相続前に家族信託

相続をするための準備として家族信託を検討する人は非常に多いです。家族信託・民事信託を実施していれば資産の凍結を防ぐことができ、問題なく相続対策が可能になるからです。

ただ、農地信託については農地法による制限があるため、家族信託をするときのハードルが高いです。農業従事者でなければ受託者(財産管理する人)になれないからです。

しかし、将来の農地転用を考えているのであれば家族信託をする意義が大きいです。このときは事前に地目変更をするなど面倒な作業が必要になるものの、家族信託について熟知している専門家(司法書士など)へ依頼することで問題なく家族信託できるようになります。

親が認知症になるなど、判断能力がなくなると農地転用は不可能になります。そうなる前に農地信託を実行に移しておけば、負の財産とはならずに土地活用できるのです。

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