会社には独自のノウハウがあります。目に見えない価値ともいわれますが、こうしたノウハウが存在するからこそ同業他社が存在する中で生き残ることができるようになっています。

ただ、社長が高齢になった段階で事業承継がスムーズにいかないと、こうした独自のノウハウについても途絶えてしまうようになります。

実際に事業承継をするとき、親族や社員などの身内へ株式を渡すのが一般的です。ただ、中には外部の人間に事業を売り払う事業承継方法を選択することもあります。そうしたとき、あなたの会社が保有するノウハウが重要になります。

これらのノウハウは営業権(のれん)ともいいますが、概念としては少し難しいです。そこで、法人経営者が事業譲渡するときの方法について解説し、その際「どのように営業権を取り扱えばいいのか」について確認していきます。

M&Aは株価だけを考えない

一般的な事業承継の場合、家族への親族内承継や社員への親族外承継を含めて株価だけで会社価値を判定します。そのために株価対策を行い、できるだけ企業価値を下げたうえで後継者へ株式譲渡(売買)や生前贈与をします。

それに対して、M&Aによる事業譲渡・営業譲渡で売買をする場合、営業権(のれん)を考慮しなければいけません。

しかし、のれんといわれても何のことだか見当がつきません。会社を売買するときは多額の営業権(のれん)が発生することになりますが、これについては「純資産と実際の買収価格との差額」と考えればいいです。

例えば純資産3,000万円の会社があったとき、買収額8,000万円であれば、その差額である5,000万円がのれんになります。

純資産3,000万円であるなら、普通に考えれば3,000万円で購入すればいいように思います。ただ、実際のM&Aではそのようになりません。これは、「純資産という数字」には載らないプラスアルファがたくさんあるからです。

  • 独自ノウハウ
  • 物流システム
  • 顧客リスト
  • 企業ブランド

これらが存在するため、結果的に純資産よりも金額が高くなるのです。

もちろん、これら営業権は明確な数字として見えるものではありません。そのため、のれんの金額の算出は難しいです。ただ、それまで会社が築いてきたプレミアムが営業権であり、営業譲渡のときにこれらが評価されると考えましょう。

事業承継と営業譲渡の違い

このとき、事業承継は「後継者や他人への売却を含め、自分がしているビジネスを後世に残すこと」という意味になります。ただ狭い意味だと、「会社の株式ごと売却し、すべて相手に渡す(会社を丸ごと渡すこと)」となります。

それに対して、事業譲渡(営業譲渡)では「会社がしている事業のうち、一部を渡す」ことになります。株式を売買するわけではないことに注意が必要です。

実際のところ、M&Aを実施するにしても会社が保有する事業のうち一部だけを渡すのは普通です。買収先の会社によって興味のある事業が異なるからです。例えば、「東京支店はA企業に売るが、大阪支店はB企業に売却する」などのようなことは普通です。

そのため、相続対策として全事業の売却を考えるにしても、事業ごとに切り分けてM&Aを実施することがよくあります。これが事業譲渡になります。ちなみに、事業譲渡も営業譲渡も意味は同じのため、両者はまったく同じものと考えることができます。

株式譲渡だと営業権償却できないが税率は低い

このとき、株式売買によって会社を売却するときは、のれん代の償却や税率について事前に理解しなければいけません。

通常、企業間で売買をした場合は経費にします。ただ、法人が個人から株式を購入した場合、のれんを含めて資産に計上されるようになります。つまり、経費にすることができません。有価証券を買っても損金化はできませんが、これと同じように株式を買っても営業権(のれん)を含めて経費にできません。

そのため、買い手の会社としては内部留保のお金で何とかしてお金を出さなければならず、非常に不利だといえます。

・売り手側は税率20%となる

一方で売り手(これから相続のために事業整理したいオーナー社長)にとってみると、税金面でのメリットが大きいです。

株式譲渡によって売った場合、どれだけ利益が出たとしても税率20%です。累進課税として所得税が大きくなるのではなく、株で儲けたお金については分離課税が適用され、通常の所得税とは分けて計算するようになっているからです。

例えば1億円で会社を売って事業承継した場合、税金は「1億円 × 20%(税率) = 2,000万円」となり、手元には8,000万円が残ります。高額な役員報酬をもらうときのように、半分が税金で消えるわけではないのです。

事業承継のとき、株式ごと売るのは買主にとっては営業権償却ができず微妙であるもの、売り手にとっては節税メリットが非常に大きいといえます。

会社分割で目的の事業だけ売却するのは可能

ちなみに、事業承継のときに株式ごと会社を売ることについて、丸ごと売ることしかできないわけではありません。事前に会社を分割することも可能です。

これをヨコの会社分割といいますが、以下のようにオーナー社長の横に新会社を立ち上げて事業を切り離すようにします。

その後、譲渡対象の事業を会社ごと売ります。譲渡対象事業を保有する会社について、のれん代を上乗せしたうえで株式売買するのです。これであれば、特定の事業だけ売却しながらも売り手としては税率20%で済みます。

事業譲渡だとのれん償却できるが半分税金

それに対して、事業譲渡・営業譲渡だと株式は関係なく、単に事業だけを売買する手法になります。この場合、買い手の会社にとっては非常にメリットが大きいです。

事業譲渡の場合、株式を購入するわけではないので営業権償却できます。何年かに分けなければいけないものの、のれん代については損金計上できるようになっているのです。営業権償却として経費にできる以上、買い手としては「株式売買ではなく、事業譲渡として売却してほしい」と考えるようになります。

これに対して、売り手にとって事業譲渡だと税金面でのデメリットが大きいです。事業譲渡だと、個人ではなく会社にお金が入ってきます。このときのお金を役員報酬として受け取る場合、報酬が高額であると半分が税金です。

これは、個人事業主が事業譲渡する場合も同様です。いずれにしても、株式売却以外の方法でM&Aを行い、多額の利益を得た場合は通常の累進課税による所得税となり、半分が税金で取られると考えなければいけません。

買い手と売り手の利益は相反する

このように考えたとき、買い手と売り手の利益は相反することが分かります。買い手としては、のれん償却できる方法を選択し、営業権については経費にしたいと考えます。ただ、この方法だと相続を考える売り手企業は税金の分だけ損をします。

一方で株式ごと売却する事業承継であれば、買い手は営業権部分を経費にできません。ただ、売り手としては税率20%だけで済みます。

重要なのは、あくまでも営業権(のれん)の部分になります。純資産については、買取りしたとしても経費にならないのは誰でも理解できます。ただ、純資産とは関係ないノウハウやブランドなどのプレミアム部分(のれん)は方法によって、買い手が経費にできたりできなかったりするのです。

ただ、一般的にM&Aでは会社を売りたい人が優位になりやすいです。事業承継で売るときの値段については要相談ですし、事業内容にもよりますが、会社を買いたい人のほうが多いのです。

そのため事業承継での営業権(のれん)について理解したうえで、相続として会社のM&Aを考えている場合は株式ごと売ることを考えましょう。

のれんや節税まで考えて相続対策を実施する

事業承継を行うとき、後継者がいるのであれば特に問題ありません。ただ、必ずしも後継者がいるわけではなく、M&Aによって会社の売却を考える経営者も多いです。

後継者へ事業譲渡・生前贈与するときは株価だけを考えれば問題ありません。ただ、M&Aでは株価に限らず「その会社が保有しているプレミアム」を考慮され、これを含めて会社価値が判断されます。また、このときは「のれん」という形で売却金額に上乗せされるようになります。

ただ、会社を売るときはいくつか方法があり、やり方によって節税額が大きく変わるようになります。しかも、買い手と売り手でそれぞれ利益が相反するようになります。

この事実を理解したうえで、事業承継のときは買い手のいいなりにならず、税金面であなたにとって有利な方法を選択するといいです。多少は売却金額が低くなったとしても、税率20%のほうが優れていることはよくあります。

営業権によるプレミアムが付くのは優れていますが、営業権償却や節税金額の違いという問題があることを理解し、事業承継のときに正しく会社をM&Aするといいです。

法人・個人事業主の事業継承で、一瞬で3,500万円以上を節税する税金対策

法人や個人事業主では、いつかの時点で必ず事業承継する必要があります。このとき問題になるのは「誰にどの事業を移すのか」「節税したうえで事業譲渡する」ことに尽きます。

その中でも特に節税は重要であり、ほとんど儲かっていな事業主でも「事業価値が1億円以上」となるのは普通です。このときき、そのままの状態で生前贈与すると5,000万円以上の税金となり、事業承継がきっかけで後継者は破産します。

そこで税金対策を講じることにより、事業承継で発生する無駄な税金を抑えなければいけません。親族トラブルが起こらないように調整するのは当然として、早めの節税対策が必須になるのです。

「税金をゼロにする優遇税制」「会社価値を一気に6割減にできる法人保険」など、事業承継では無数のスキームが存在します。そこで、事業承継に特化した専門家を紹介します。これにより、高額な節税を実現しながらもスムーズな事業の引き継ぎが可能になります。

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